愛すること、そして愛されることの悲しみを描いた作品。
 京劇の学校で二人は出逢う。蝶衣は男だが、幼い頃から優しくて頼りになる小樓が好きで、しかし自分の気持ちは口に出さず、小樓とある一つの京劇を舞い続けた――それが「覇王別姫」。項王は小樓、虞姫は蝶衣。この劇の間、彼は幸せだった。普段は小樓と兄弟のように接していても、舞台の上では、彼は小樓に愛される一人の女になれたから。彼はたとえ現実で自分の恋は実らなくとも、いつまでも二人で「覇王別姫」を演じられればいいと思っていた。けれど一人の女の登場を皮切りに、彼の心は引き裂かれていく。小樓は菊仙という元娼婦と結婚してしまう。小樓が自分ではない人間を愛している、その事実を見せつけられ、更に昔自分が救った小四(注:名前です)に虞姫役を奪われた彼は、絶望の淵に立つ。やがて文化大革命が起き、京劇を捨てず阿片を常習していた彼は、小樓と共に群集の前に引き出される。京劇の化け物、京劇を捨てろ、となじられる中、彼は群集の中に菊仙の姿を見つける。彼女が自分を夫の弟、つまり自分の弟のような存在だと思ってくれていると感じてはいたのに、彼は群集の前で彼女が昔娼婦であったことを暴露してしまう。それをきっかけに彼女は自殺する。蝶衣と小樓はその後長く会わず、十一年後に再会する。昔のように、昔演じた劇場で、二人は「覇王別姫」を舞う。しかし昔とは全てが違っていた。小樓が劇を中断しようと背を向けた時、彼は小樓の持っていた剣を引き抜き、自らの身を貫く。まるで本物の虞姫のように。そうして、彼は彼自身の「覇王別姫」を完結した。

 覇王別姫・・・項羽とその寵姫、虞(ぐ)の物語をモデルとした京劇。敵に包囲されもはやこれまでという時(この状況が四字熟語「四面楚歌」の由来となった)、虞は項羽のために舞い、自害した。

 人間の激情が渦を巻き、決して幸福に満ちた物語ではないのですが、わたしにはこの映画が一つの純愛物語と思えてなりません。
 京劇そのものの美しさも見所の一つですが、蝶衣役の今は亡きレスリー・チャンの渾身の演技は必見です。レスリー自身がゲイで、三角関係に悩んで自殺したこともあり、演技とは思えない表情に切なくなります。彼の自殺に、この映画は間違いなく影響を与えていると思います・・・。

 菊仙役は中国を代表する女優・鞏俐(コン・リー)。

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