犯罪被害者の傷を抉る取材者への警告ともいえます。「地下鉄サリン被害者の会」の代表世話人の高橋シズヱさん(車内にあったサリンのもれだしている新聞包みを取り出し、被害の拡大を防いで亡くなった方の妻)と理解ある記者の手による本。
 読んでいると腹が立って泣けてきます。高橋さんの経験した報道被害だけでも相当なもの。事件直後、精神的にギリギリの時に大挙して自宅に押し寄せ、写真を撮る、フラッシュを浴びせる。朝早く突然現われて、ドアの間に足を挟んでドアを閉められないようにしてコメントを求める。「貸してください」と言って持っていった被害者の写真を他の取材者に使わせない為にいつまでも返さない。葬儀式場の中にカメラを担いでドヤドヤと入って来る。他にも残酷な行為が平気でなされています。
 ショックだったのは大阪教育大学付属池田小学校事件で娘の麻希ちゃんを亡くした酒井馨さんの話。通報が遅れたこともあり救命活動は遅れた。校舎から運動場へ下りる階段の所で、学校の先生が必死で麻希ちゃんに人工呼吸をしている時、先生の耳にヘリの音が聞こえてきた。ヘリは二機、三機と増えてきた。先生はこの子は病院へ運ばれてきっと助かる、と思った。けれどヘリは一機も降りて来なかった。直下で命を失おうとしている子がいるのに、広いグラウンドがあって降りるスペースはあるのに、ヘリはただ写真や映像を撮り続けた。低空で撮影するヘリの爆音で救急車の無線は正確に伝わらず、取材の電話で消防署の電話回線も小学校の電話回線もパンクして、どの子がどこの病院に運ばれたのかもわからなかった。麻希ちゃんは病院へ向かう救急車の中で失血死した。学校へ駆けつけたくても取材陣が道を塞ぎ、渋滞して前に進めなかった。病院でも取材陣が待ち構えていてマイクを向けた。自宅にも取材陣はやって来ていて、亡骸を裏口から運び入れるしかなかった。葬式に無断で入ってきて、「デスク、泣かせてやりますよ」と無断でカセットレコーダーで葬儀の模様を録音し、それを無断で本にされた(本の内容も最低)。出棺の時も凄まじいフラッシュをたかれた。自宅に入り込まれた。映像は撮らない約束で取材に応じたのに、映像を撮られて放映された・・・。
 世田谷一家殺人事件のケースも悲惨。警察においても調書は事実と違うことばかり書かれていて調書と呼べない代物、血は見えなかったのに「一面血の海」と書かれたり、遺族は実は在日コリアンで(現場には韓国製テニスシューズの跡があった)事件は遺族に関係がある、と荒唐無稽な嘘を書かれるなど散々。
 他にもありますが後は読んでください。m(_ _)m 松本サリン事件を真っ先に通報した方が容疑者として報道されたことなども触れられていて、やりきれない気持ちになりますが・・・。根拠もないのに映像や活字になると、信用されてしまうマスメディアの一面が恐ろしい。また、周りの目も、恐ろしい。「何も知りません」と近所の人が言っただけで「近所づきあいはなかったようです」と報道されてしまう恐ろしさ。被害者を「お前に落ち度があったんだ」と中傷し、被害者に無理やりにでも落ち度を見つけて自分は大丈夫だ、と安心しようとする人間の醜さ。神戸連続児童殺傷事件で娘の彩花ちゃんを亡くした山下京子さんが、報道用に写真を渡したら、彩花ちゃんの顔が切り抜かれて返ってきたというのにも、涙が溢れました。
 「報道の自由」や「知る権利」は決して「人を傷つけてもいい自由」ではない。記者側の文章も載せられており、素晴らしいです。

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