この映画の主役はバットマンではない。ダニー・デビートが怪演した「ペンギン」その人である。手の代わりに水掻きが生えた赤ん坊は、両親に河に投じられた。しかし生き続けた。地下水道のすえた匂いと空気と共に彼は育ち、また恨みと愛情への渇望も育てていった。彼は地上、ゴッサム・シティへ出ていく。しかし愛して欲しかった両親は既にこの世にいなかった。彼を完全に置き去りにして。「俺は人間じゃない!」。異形のものの悲しみと、拒絶される痛みが伝わってくる。人間に愛されることのなかった彼は、ペンギンたちによる葬列に運ばれてゆく。永遠に地上にかえることなく。
 キャットウーマンも危険な魅力でバットマンを誘惑、ペンギンを誘惑。求めるものがわからない悲哀も感じさせる。死に様も艶かしく、美しい。
 ティム・バートン監督の代表作の一つと言えるだろう。雪の降るゴッサム・シティーに、絵本のような「シザーハンズ」の世界を、そしてどんな夢より美しい悪夢を想った。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索