眠っている美女には心惹かれるものがある。川端康成の『眠れる美女』もまた背徳ゆえの恍惚を味わわせてくれる。
 老人は宿へ行き、そこで美しい女の子の隣で眠る。女の子は一糸も纏わず眠らされ続けている。触れても声をかけても目覚めない、あたたかな人形のように。宿には禁制があって、女の子を犯してはならない。口の中に指を入れてみようとしてもいけない。だが主人公はこの宿へ来る相応の歳を取ってはいてもいまだ衰えてはいない。禁制を破ろうとする。思いとどまる。破ろうとする。思いとどまる。そのうち女の子と同じ薬で死んだように眠りたいと思い始める。
 若さとは?老いとは?という高尚な問いかけをする体裁を取りつつも、実は川端康成による官能小説のような気がしないでもない作品。

 他にこの全集で心に残ったのは『みづうみ』ではなく短編『弓浦市』。スティーヴン・キングのミザリーと江戸川乱歩のパノラマ島奇談を思い出した。わたしも気がつかぬうちに弓浦市に行ったことがあるのだろうなあ。

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