ノスタルジイ

2006年5月19日
 ふるさと、と言うとなぜだかあの風景を思い出す。
 山の奥深くに廃校があって、そこで父の友人である陶芸家がろくろを回している。長髪で眼鏡をかけていてちょっと抜けたところのある、いかにも陶芸家らしい人だ。小学校の中庭だったところには錆びて草が絡まったブランコがあり、今も大きな楠木がそびえている。
 父に連れられてそこへ遊びに行く度に、わたしは楠木のそばにトトロがいるのではないかと探した。滝もあったので、父と陶芸家が話をしている間、一人で水浴びも楽しんだ。陶芸家は犬を飼い始め、わたしはその犬とも友達になった。
 あの場所では水も木々もきらきらしていた。廃校なのに寂しさがない場所だった。
 だが陶芸家は歳を取った。木々の手入れをすることも草を刈ることも億劫になった。あの場所はだんだんと変わっていった。けれどわたしは中学生になっても時々出かけていった。犬は死んで新しい犬が子どもを生んでいた。思春期を終えてしまうことが怖かった時、滝の奥へ奥へと進んでいって今度はトトロではなく別の何かを探していた。
 そして今。陶芸家はもっと歳を取って、しかしいまだあの場所でろくろを回している。
 かえりたい、あの風景に。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索