主人公は高校生・桐谷修二。彼は自分の外見や言動を目立ちすぎず且つ地味にならないよう調節し、クラスの人気者「桐谷修二」を作り上げてきました。周りの人間はこの「桐谷修二」は俺自身だと騙されている、みんな馬鹿だ、だけど俺は頭が良い・・・と笑いながら。そんな彼は、ある日編入してきた丸々と太ってワカメのような髪型のどうしようもなくダサい小谷信太を人気者にすることで、自分の頭の良さを証明しようとします。
 しかしそれは悲劇の始まり。小谷信太、通称「野ブタ」は「桐谷修二」よりも人気者になっていったのです。「野ブタ」は彼のプロデュースに従って外見を変えたり行動を起こしたりしているとはいえ、性格の良さは本物。それに比べて彼自身は周りを騙し自分自身をも騙しながら「桐谷修二」を作ってきました。嘘はいつかばれるもの。「桐谷修二」がニセモノだったことが、ばれてしまいます。人気者からの転落は早いものでした。彼はクラスにいられなくなり、転校。けれど再び悲劇は起きるでしょう。彼はこの新しい学校で、「桐谷修二」に自分をプロデュースしてもらおうとしているのですから。
 なぜ彼は彼自身でいられないのでしょうか。若者特有の過剰な自意識ゆえでしょうか。自分が特別な存在ではなく一人の高校生に過ぎないということを認めたくなくて、傷つきたくなくて、自分自身の代わりに「完璧な自分」を作る。一番の存在になるのは疲れるしいじめられるのは怖いから、「完璧な自分」は目立ちすぎてもいけないし地味でもいけない。だから彼は「桐谷修二」を生み出したのです。やがてお互いに崩れていくことに気づかぬまま。「桐谷修二」は友達の数は多くても親友はいませんでした。信じてくれる人もいませんでした。彼は「桐谷修二」ではない彼自身を生かすことができませんでした。
 この小説は過去にドラマ化されていて、わたしはそのドラマを毎週夢中になって見ていました。桐谷修二は小説より角が取れた少年になり、「野ブタ」は優しい女の子に、そして桐谷修二には彼自身を信じてくれる親友ができました!
 この小説はこの小説で若者の不安定さや苦しみを描いていて嫌いではないのですが(前の席に座っている女の子の三つ編みの輪っかを神妙に数えるところなど、コミカルな部分が冴えてます☆ 言葉の運びもテンポが良いし)、わたしは小説とドラマが違う作品になっていて良かったと思います。

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