エデンの園を出たアダムも、こんな気持ちだったのかもしれない。与えられた世界は確かに居心地が良い。けれど、それだけだ。
 トゥルーマンにとってシルヴィアはイヴ。彼女は別の世界があると教えてくれた。神様はシルヴィアを追放し「この世界こそ真実だ」と彼に語るけれど、彼は出て行く。知らない世界。神様のいない世界。けれど怖くはない。その世界にはシルヴィアがいるから。
 『The Truman Show』はまさにTrue man showだ。
 トゥルーマンは生まれてからずっと閉じられた世界で生きてきた。テレビ番組の中で。彼の姿は24時間放送されている。けれどそのことを彼は知らない。彼が暮らす家、働く会社、卒業した大学、いつも行く店、それらは全てセットだ。父親も母親も妻も友人も同僚も店の店員も、決められたセリフを喋っている。彼はそのことを知らなかった。その世界を信じていた。シルヴィアが現れるまでは。
 この映画の怖いところは、観ているこちらまで神様の視点になりそうになるところだ。トゥルーマンは与えられた世界を出て行く。その時、わたしは嬉しいが寂しいと思った。なぜだ。これはハッピーエンドなのに。出て行って欲しくないと思った。
 もしもエデンを出るアダムとイヴの背中を神様が見つめていたとしたら、神様はこんな思いを感じていたのかもしれない。閉じ込めることも出してやることもできなかった寂しさを。今までは、2人がそこに居たいと願っていたからこそ2人をそこに置けたのだ。2人が出たいと願うなら神様はそれを止められない。愛しているから。さよならと言うことも出来ず神様は2人の背中を見つめているのだ。いつまでも。
 トゥルーマンのその後は描かれていない。シルヴィアは彼の傍にいるだろうが彼はこの世界に悲しみ、苦しむことになるだろう。この世界へ来たことを後悔することもあるだろう。だが大丈夫だ。映画の外のアダムとイヴだって、悲しみ、苦しみながらも、ちゃんと生きているのだから。
 さよなら神様。ごめんなさい。ありがとう。

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