カラーの無声映画のような雰囲気を持つ短編小説集。非現実的なのに、音や色や匂いや感触が直接伝わってくるかのようです。
 主人公たちは現実から浮遊(浮遊した後は地に落ちるだけということを意味)した存在にはなりたくないけれど、地につま先しかつけていられないような人たち。短編の1つ『ある映画の記憶』の主人公などは懸命にかかともつけようとしている感じですが、『睡蓮』の主人公である理瀬は物語が終わったのち浮遊してしまったかもしれません。
 恩田さんは少ない描写で人物の魅力を伝えるのがうまい方ですね。リフレイン(同じ言葉を繰り返すこと)を効かせるのもうまい。それを活かすため短編『春よ、こい』が書かれたのだと思います。本当にリフレインが素晴らしい効果になっている。短編でしか書けない透明さを表現していると思います。直接関係がないのでここで紹介するのは恐縮ですが、映画『花とアリス』の持つ薄くて綺麗な色や澄んだ空気を彷彿とさせます。けれど2人の女の子を主人公にしているとは言え、若干視点をころころ変え過ぎたり時間を移動させ過ぎているような感じがします。そのように構成していることでこの小説のテーマである冬から春への移り変わりが活きてくるとは思うのですが、最初読んだ時「押し付けがましい」という印象を拭えませんでした。何度か繰り返し読んだことでこの作品を好きにはなれたのですが、「この短編集の中で1番好き」にはなれませんでした。この小説の後半だけページの色がピンクなら違っていたかもしれないけれど(無理ですかね・・・)。
 わたしがこの短編集の中で1番好きなのは『イサオ・オサリヴァンを捜して』。こういうBGMの静かそうな、品のあるSF小説が好きなものですから。わたしもイサオを捜しに行きたくなりました。2番目に好きなのは、『国境の南』。静かすぎる、穏やかすぎる、そんな狂気の物語。結末ではわたしも主人公同様、冷や汗を感じました。
 恩田さんの代表作の1つ『六番目の小夜子』の番外編が書き下ろしされているのも嬉しいものです。それがこの本のタイトルにもなっている『図書室の海』。平凡な学校で引き継がれている、変わった伝統。それを感じながら学校生活を送る生徒たち。図書室のあの特別な感じ、まどろみ・・・、よく出ていますね。読むととても心地よくなります。また図書室に行きたいなあ、と。図書館ではなく図書室へと。

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