働く女性たちへの強いメッセージだけでなく、映画として楽しませようという作り手の想いも感じられる映画。そして様々なファッションの中でも特別な存在として描かれているのが、靴。
 高い高いヒールの靴で颯爽と歩く女性を、わたしは尊敬しています。歩きにくさや痛さなんて傍目からは微塵も感じさせず顔には笑顔さえ浮かべて、時にはその高い高いヒールの靴のまま走り回ることだって出来る。並大抵の体力・美意識・根性では不可能です。気を抜けばそのヒールの高さゆえに体はいつの間にか前傾姿勢を取ってしまうため、常に背筋を伸ばした姿勢でいる集中力も必要。『プラダを着た悪魔』にはそれらの力を備えた女性たちが登場します。高いヒールの靴が履いていて辛いものならば低いヒールの靴を履けばいいのに、という考えは不適切です。靴は人を今居る場所とは違う場所へ連れて行ってくれる物。もしその人が高いヒールの靴以外は相応しくない場所へ行くことを望み、更にその場所に居続けたいのであれば、高いヒールの靴は絶対に必要なのです。
 『プラダを着た悪魔』はファッション誌の編集部を舞台にした映画。しかもただのファッション誌ではなく世界的に有名な雑誌という設定。それなのに主人公・アンドレアはおしゃれに疎いまま、その雑誌に目を通すこともしないまま、編集長付きアシスタントとして採用されてしまいました。スタイリッシュという言葉からどこまでも縁遠い服を着る彼女・・・。特に、編集部に面接のためやって来た時の彼女の髪は「ぼさぼさ」という言葉以外では形容しがたいです。そんなアンドレアを演じるのは天使のような魅力も小悪魔のような魅力も併せ持つアン・ハサウェイ。彼女はこの映画によって、どんなに元が美しい女性でもいい加減な格好をしていると内面までいい加減に見えるという教訓を示してくれました。アンドレアは中身が変わっていくと同時に、着る服も履く靴も髪型もメイクも変化していきます。その変化を観客が常に追えるようにこの映画のカメラワークは展開されています。
 結末についてはきゅっと口を噤もうと思います。結末におけるアンドレアの変化も、観る人によっては非常に意見の分かれるものですし・・・。けれどこれだけは言わせてください。結末の、ある登場人物2人の表情に注目です。その2人もアンドレアと同様葛藤を抱えて生きてきて、アンドレアによって今その葛藤を少しでも自分なりに受け入れることが出来たのだ、と感じさせる表情。きっとその表情を見るだけで、この映画を観て良かったと思えますから。

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