*注*ネタバレあり。
あらすじより考察重視で書いています。
申し訳ありませんがあらすじを知りたい方には参考にならないと思います。

わたしには「このラストは本当のラストではない」と思えてなりません。

嗅覚によって世界を感じる男性、グルヌイユ。
彼はもし「五感のうち感覚を1つか残せない」と言われたなら間違いなく嗅覚を選ぶでしょう。
背後から果物が飛んでくることに嗅覚で気づき、果物と自分との距離を素早く察知してよけることが出来る。
1人1人の体臭を嗅ぎ分け、目標の人物を何キロでも追える。
嗅覚によって人間の体調や気分までも察知することができる。
彼自身には体臭がないため、犬に吠えられることを恐れずにどんな場所へも侵入できる。

グルヌイユ、あなたは刑事になればきっと偉大になれたでしょうに・・・。
彼は香水調合師になってしまいました。
彼は「最高の香水を作りたい。最高の香りを保存したい」という望みを追及した結果、女性たちを殺して女性たちの体臭を集めてしまうようになりました。

人間の体臭を吸い取る脂を女性たちの遺体に塗り、ミイラを包むようにして布で遺体を包んで脂の効能を上げる。
より体臭を集めるため遺体の髪の毛もきれいに剃って、脂まみれになった髪の毛を手で絞る。
布を剥いでいき、遺体についている脂をヘラのような道具で丁寧に集めていく。
布には脂が残っているので、布も絞る。
そうして彼は女性の体臭をたっぷり吸い込んだ脂を手に入れるのです。
しかし1人分の脂から抽出できるオイルはごくわずか。
彼は最高の香水を作り出すために13人もの女性を殺しました。

殺す必要はなかったのに。
女性の体に脂を塗ってしばらく置いた後、脂を集めれば良いだけなのですから。
むしろ彼にとっては、生きている女性から脂を取った方が死臭の混じるリスクを減らせるので都合が良かったはず。
遺体には性的暴行を加えることなく、髪や布と一緒に土に埋めていましたし。
脂さえ集めれば良いだけだったのです。
けれど彼は、良い体臭の女性を見つける度に殴り殺していました。

なぜ? 理由は色々考えられます。
1つは、女性にどうお願いすれば了承してもらえるのかわからなかった、ということ。
ある時彼はどうしていいのかわからず女性を殺してしまったことがあり、その時初めて脂を集めることに成功したので・・・それがクセになってしまったのでしょう。
どうすれば殺さずに済むのかわからないけれど、ともかく殺してしまえば確実に脂を取れる、ということに気づいてしまったのでしょう。
2つめには、恐怖は悪臭を放つから、ということ。彼は女性たちが彼に対して恐怖を抱く前に殺す必要があったのでしょう。脂を集めさせて欲しい、と頼んだら確実に女性は「なにこの人?」と恐怖を抱きます。恐怖による悪臭を混じらせるくらいなら、遺体から死臭が出る前に脂を集めてしまえばいい、と彼は考えたのかもしれません。殴り殺すという殺し方も、全ては体臭を出来るだけ良い状態で集めるためなのかも(クセになったからかもしれませんが)。ナイフで刺したりすれば血の臭いが混じってしまうから。

 彼には「殺人犯になりたくない」「死刑になりたくない」などという考えはありません。彼は他の人間と比べて全く異質なのです。彼が初めて女性を殺した時のことを例に挙げて、彼の異質さを説明しましょう。ある時彼は良い体臭の女性を見つけ、彼女をどこまでも追いかけて体臭を嗅ぎ続けました。当然彼女は悲鳴をあげようとしました。彼は慌てて彼女の口を塞ぎ、・・・恐らくは鼻まで塞いでしまったのです。事故といえば事故。殺すつもりは無かったのですから。女性を殺してしまった彼は悲しげな顔をしました。けれどそれは女性の死を哀れんだからではありません。女性が死んでしまうことによって体臭が消えてしまうからです。実際彼女の体臭はどんどん消えていってしまい、死臭ばかりが強くなっていき、彼は泣きました。彼はこの出来事をきっかけに最高の香水作りに没頭するようになりました。それ以降は故意の殺人を続けたのです。

 香りこそ彼の全て。最高の香りを嗅ぎ続けたい。最高の香りを失いたくない。それが彼の望み。

 以下、結末に関わるネタバレをします。
 完全ネタバレではありませんが、ご注意を。

 だからこそわたしはこの映画のラストを本当のラストではない、と感じました。彼の望みは「人に愛されたい」「人に自分のことを忘れないでいて欲しい」「人に自分のことをすごい存在だと思って欲しい」ではないのですから。ましてや「自分のことを愛せるようになりたい」という望みもないような気がします。彼にとって重要なのは彼自身ではないから。重要なのは香り。彼自身には体臭がない、という設定があのラストに至るとも考えにくいです。「この世のあらゆるものには匂いがあるのに、自分には体臭がない」ということにはショックを受けたでしょうが、彼の興味は良い香りを嗅ぐこと。自分や誰かに良い香りをつけることより、嗅ぐことに重点を置いているのです。だから彼が自分に体臭がないことで自暴自棄になったとは考えにくいです。むしろ自分に体臭がないことで、自分の体臭に邪魔されず香りを嗅ぐことができる、と彼ならば考えるはず。また、「最高の香り(初めて殺した女性の)は結局永遠に失われたのだ」ということにはショックを受けたでしょうが・・・彼は世の中には良い体臭の女性が沢山いることを知っているのですから、また探せばいい、という発想に至る可能性が高いと思います。そもそも一滴一滴のオイルを大事に扱う彼があんな無駄使い(これはラストのネタバレになってしまうので詳しく書けません)をするはずがないのです。

本当のラストはこういったものかもしれません。彼は最後のオイルを抽出し、いよいよ最高の香水を完成させようとしていました。しかしその時、殺された女性の父が彼を発見。女性の父は彼に襲いかかりました。2人がもみ合ううちに調合器具が倒れ、完成間際の香水が地面にこぼれていきます。彼は香水を守ろうとして体勢を崩し、女性の父の剣が彼を貫きます。女性の父は娘の仇を討ちました! 香水が全て地面にこぼれるのを嗅覚で感じながら、そのむせかえるような香りに包まれながら、彼は絶命。辺りは香水の香りが包まれます。女性の父はその香りに何故か娘を思い出し、その場から立ち去れなくなる。・・・というラスト。

しかしそれだと映画として面白くないんですよね。正式なラストは彼のラストらしくはないけれど、映画としては正しいと思います。強烈ですもの。

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