もうすぐ不動産を買って大家になるよ、という方に観ていただきたい映画です。そういう方にとってこの映画は恐怖映画です。「大家になったら自分も貸借人にこんな目に遭わされるかも・・・」と御覚悟を。
 アレックス役はベン・スティラー、ナンシー訳はドリュー・バリモア。中でもバリモアの演技が印象的です。夫人に冷静に接しようとするバリモアの固まった表情や、夫人の死に様を想像するバリモアの微笑みを見ていると・・・。思わずこちらまで夫人の死に様を想像してニヤリとしてしまいます。

 *注*完全ネタバレの上、詳しく書きすぎて恐ろしい長文になってしまいました。m(><)m

 新婚カップルのアレックスとナンシーは家を探していました。2人は不動産屋に「掘り出しものですよ」と導かれて、ある家を見に行きます。
 外装も内装もクラシックな家です。2階建て。年数を経た木の内装の色と香りが、アンティーク好きの心をくすぐります。大きな本棚が備え付けられており、暖炉が3つあり、黒い廻階段が1つあります。黒い廻階段はなめらかな曲線を描き、薔薇の花と葉を思わせるような細工が施されています。浴室の壁にはオリジナルのタイルが嵌められています。リビングには大きな窓があって日の光がよく入るうえ、窓の1つには孔雀を描いたステンドグラスが使われていて勿論このステンドグラスからも光が差し込みます。家の広さは167平米とはいえ、2階建てで2階にも浴室がついているので将来子どもが生まれても部屋に困りません。周辺は交通量も少なく、近くには児童公園やお店もあります。
 2階にはコネリー夫人という100歳近い女性が1人で住んでいます。賃貸法により、もし2人がこの家を買って大家になったとしても、夫人を追い出すことは出来ません。その場合2人は大家としての義務を果たさねばならないのです。1階に大家である2人が住み、2階に賃借人である夫人が住むという形で。とはいえ不動産屋は「優しいおばあさんです。それに夫人は体が弱い」と言いました。アレックスとナンシーがコネリー夫人に会ってみると実際夫人の人柄は良さそうでしたし健康状態は思わしくないようでした。2人は2〜3年もしたら子どもが欲しいと思っていたので、ちょっと意地悪な考えではありますが、その頃にはコネリー夫人は亡くなったり施設に行ったりしているだろうから2階を使えるようになるだろう、と考えました。不動産屋が提示したこの家の値段は2世帯住宅としては考えられないほど安く、しかも不動産屋は「(あなたたちが早く決めないと)この家にはすぐ他に買い手がつく」と言ったので・・・。
 2人はこの家を買い、夫人の大家になってしまいました。
 そう。なってしまった、のです。2人は1階に住み始めてすぐ後悔し始めます。
 まず後悔したのは音のことでした。クラシックな家なので2階の音が1階にはっきり聞こえてしまうのです。夫人は高齢で耳が遠いためテレビの音量を上げるのですが、夜だろうとお構いなしに大音量でテレビを観るのです。日常的に。それに夫人は音楽を好むため、大音量で音楽も聴くし演奏もします。ダンスもします。1階で眠ろうとしている2人は全然眠れません。2人が「静かにして」と頼んでも、夫人はお構いなし。
 次に困ったのは、夫人が雑用をひっきりなしに頼んでくること。大家の義務を超えた雑用ばかりです。ごみ出しを頼んだり、買い物に付き合わせたり、ペットを捕まえさせたり、ただのレーズンを「ネズミのふんでしょ?」としつこく聞いてきたり。とにかくしょっちゅう声をかけてくるのです。2人が「2人とも働いているから、緊急の困りごとの時だけ声をかけて」と頼んでも、夫人はお構いなし。
 最も2人にストレスを与えたのは、夫人が2人に感謝や謝罪をしないこと。前述したように夫人は2人の頼みごとを聞いてくれません。それなのに夫人は自分の頼みごとは叶えられて当然と思っているのです。例えばこんなことがありました、夫人が喉にチョコレートを詰まらせたので2人が夫人を救命した、ということが。アレックスが夫人にチョコを吐きださせて人工呼吸を施し、ナンシーは心臓マッサージを施したのです。それなのに夫人は「(2人がチョコレートに薬を仕込んでいて)わたしはチョコレートを食べたら気を失った」「気を失っている間(アレックスに)強姦されかけた。キスもされた」「ナンシーは(夫の強姦を助けるために)わたしを押さえつけていた」と警察に訴えたのです。その上、ごみ出しを頼まれた時ごみの中から夫人の下着が飛び出してしまってそれをアレックスが拾い上げただけなのに、夫人は「(アレックスは)わたしの下着を盗んで匂いを嗅いだ」と警察に訴えたのです。そんな稀少なフェチいるんかいな? ・・・否、いるかも。年上好みと下着愛好を極めし者が。しかも100歳以上をストライクゾーンとする猛者が!・・・話が逸れました。しかし夫人は「とても良い夫婦だから」となぜか告訴はしませんでした・・・。その後も夫人は2人にこういった行為を続けたのです。
 2人は、夫人が死んでくれればいいのに、と願います。夫人の死にざまを想像する時の2人の顔は輝いています。2人は色々考えました。階段から落ちる夫人。生きたまま袋に入れられて海に落とされる夫人。他にも首を折る、ショック死させる、殴り殺す、首を切る、溺死させる、小さく切り刻むなど様々な殺し方をお互いに話しては想像し合って、「お互いに悪魔ね」と夫婦の絆を強くしました。2人はこの段階ではただ夫人の死を想像して楽しむだけでした。
 しかし夫人は、アレックスが書いた完成原稿が入った(アレックスは作家です)パソコンを火の燃えている暖炉に投げるということまでやってしまいました。燃えるパソコン・・・燃える原稿・・・燃える・・・燃える・・・あああああああ。ついに2人は決意しました。夫人を殺そう、と。夫人にインフルエンザをうつそうとしたり、電気ショックを与えようとしたり、ガス爆発を起こそうとしたり・・・、でも全て大失敗。それどころか自分たちだけがひどいインフルエンザに苦しみ、電気ショックを受け、ガス爆発で顔にひどいヤケドを負いました。2階を水漏れさせることで床材を腐らせ夫人ごと床を落とそうとも試みましたが、これも大失敗。
 思い余ってアレックスは銃を買ってきましたが、夫人を撃つ前にアレックスの股間が撃たれてしまいました(銃が暴発したのです)。とうとう2人は殺し屋を雇いました。殺し屋を雇うための料金は思った以上に高かったため、2人は全ての家具を売り払うしかありませんでした。しかし夫人を殺せると考えると家具を売り払うのも楽しいもの。かくして2人は殺し屋を雇いました。しかし夫人はなぜかモリ銃を所持しており、モリで殺し屋の胸をぐっさり刺しました。殺し屋はモリが刺さったまま逃げ去ったのでその後どうなったか不明。亡くなっていないと良いのですが・・・。当然まだまだ夫人は生きています。
 2人は決意しました。この家を売ろう、と。もう十分戦った、と。2人は買った時より非常に安い値段で不動産屋にこの家を売り、この家には新たな買い手がつきました。2人が別れを言うため夫人を訪問すると・・・。なんと夫人は、椅子に座ったまま動きませんでした。息もしていませんでした。不動産屋は夫人の首や手首に手を当てて脈をはかり、「夫人が亡くなっている」と2人に告げました。2人は大ショックを受けました。まさか! あれだけ自分たちが殺そうとしても死ななかった夫人なのに! 2人はショックを受けつつも、この家を後にしました。
 ・・・しかし当然この映画には続きがあります。2人がこの家を去った後、2階では夫人と不動産屋と警察官(夫人が2人の行いを訴えた警察官)の3人がお茶を楽しんでいました。ぴんぴんしている夫人は言いました、「今度からはもっとわたしの取り分を多くしてくれよ」。不動産屋は言いました、「でもママ。今だって随分渡してるだろう?」。
 アレックスとナンシーは詐欺被害に遭ったのです。大家がこの家を買い値より安く売れば売るほど儲かる仕組み。新しい大家はすぐ決まるのですから。何たってこの家はとても魅力的なのです。けれど詐欺被害に遭ったことを知らないまま2人はこの家を去りました。きっと、夫人と不動産屋と警察官はこれからも、次の大家をカモにして詐欺を続けていくのでしょう・・・。

 初見の時は気づかなかったのですが、わたしは2回目にこの映画を観た時あるシーンに釘付けになりました。問題のシーンはかなり前半の方、2人が大家になったばかりの時にあります。なぜわたしは初見の時に気付かなかったのでしょう、アレックスが夫人に「困った時は声をかけて」と言った時夫人が不気味に笑っていたのを・・・。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索