一度めは音付きで、二度めは音無しで見つめていただきたい映画です。
 小三馬さんがどんな眼をしているのか想像するために。
 そして、そんな眼をしている男性を好きになった女性の気持ちを想像するために。

 *注* 以下はネタバレありの考察です。

 沢山のものをジッと見つめている小三馬さんを、純江も見つめていました。
 なぜ彼はあんなに無口なのか。なぜ人に誤解されても平気でいられるのか。なぜあんな綺麗な化粧ができるのか・・・。
 純江は彼に恋をしたから、誰よりも彼を見つめることができました。
 見つめていたから、彼の秘密に気づきました。
 純江はその秘密を誰にも言いませんでした。言わなくたって皆幸せに生活していけるし、彼が困ることになるかもしれないし、今のままで自分は彼と一緒にいられるから・・・(この辺の心理描写は詳しく描かれていないのですが、純江にはこんな想いがあったのではないでしょうか)。
 けれど純江は一人娘。純江は、婿を取って家を継がなければならない、と自分でもわかっていました。わかっていたから彼に気持ちを告げず、ニコニコ笑っていました。
 面と向き合っていなければ、自分の声は彼にはわからない。そう知っていたから、純江は彼がこぐ自転車の後ろに乗りながら泣きました。「小三馬さんのそばにいたいのに」と泣きました。
 すぐに純江の婿は見つかり・・・、お嫁入りが決まりました。純江は彼に化粧を頼みました。綺麗な化粧が出来上がり、純江はまた涙を流しました。
 涙を流した後で。純江は彼が警官に暴力を奮われているのを目にします。彼が後ろから警官に呼び止められ、その呼び止めを無視して逃げたから暴力を奮った、とのことでした。
 「小三馬さんは逃げたんじゃない!」
 彼に恋をして、彼を見つめていたから、純江はそう言うことができました。
 彼と結ばれることはできなかったけれど。
 彼を救うことができました。

 人をよく見つめている彼のことですから、きっと彼は純江の気持ちに気づいていたことでしょう。
 純江が自転車の後ろで泣いた時だって、彼はバックミラー越しに彼女の表情を見つめていたのです。きっと気づいていたはず。
 けれど彼には見えてしまっていたのでしょう。彼に気持ちを告げない純江の気持ちも、自分を嫌う純江の両親の気持ちも、娘に婿がくるのが嬉しいという純江の両親の気持ちも、何もかも見えてしまっていたのかもしれません。
 だから彼は自分が純江をどう思うか言わなかったのでしょう。
 わたしは、彼は純江を好きだったのではないかと思います。なぜなら、彼の化粧は人を別人にするものではなく、本来のその人の姿に戻すような化粧だからです。
 彼は彼女を綺麗に化粧しました。
 それは彼が純江の綺麗さを知っていたということでしょう。
 彼に化粧された純江が涙を流したのも、彼のその気持ちが伝わったからではないでしょうか。そうであって欲しいです。せめて・・・。

 

 ―――――――
 <備考>
 ●小三馬を演じたのは椎名桔平さん。目で語る椎名さんの色気は必見です。わたしはドキドキしっぱなしでした。

 ●雰囲気ぶち壊しの余談で恐縮ですが・・・。
  純江を演じたのは菅野 美穂さん。純江の両親を演じたのは田中 邦衛さんと柴田理恵さんです。・・・この両親から菅野さんが生まれるわけないべ! あれか、隔世遺伝か!
  ・・・と思わずツッコミを入れてしまいました、すみません。柴田さんが美人なのは存じ上げております。

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