kagrra, 『鬼灯』

2008年10月17日 音楽
 シングル『渦』収録曲。


 この曲を聴きながら、わたしは想像します。
 月光が仄暗い地下世界をも満たす、そんな夜を。

 死者が蘇る。

 彼は愛する人を捜して彷徨っている。
 けれど彼には目も鼻も耳も唇も無い。
 見つからない。
 呼びかける術が無い。
 愛する人の姿が、匂いが、声が、肌が、わからない。

 彼は愛する人を覚えていない。
 脳も心臓もとうに失くしてしまった。
 自分は彼女をどんな名で呼んでいたのだろう。
 自分は彼女にどんな顔で微笑ってもらったのだろう。
 思い出せない。
 彼の魂に、彼女を愛していたことだけが沁み付いて残っている。
 逢いたい。

 月の力が弱まれば、彼は地下に引き摺り戻されてしまう。
 その前に逢いたい。
 彼は彼女を捜し続けている。


 彼は不意に懐かしさを感じて、彷徨うのをやめた。
 どうやらもう彼女も、もう生きてはいないらしい。
 彼女にも、体がない。
 泣きたいけれど、二人には泣くための体がない。
 口づけたいけれど、唇がない。
 抱きしめたいけれど、腕がない。
 もう一度生まれたい。
 もう一度出逢いたい。

 月光を一筋取って、二人はお互いに運命の糸を結ぶ。
 運命に逆らって結ばれた運命の糸は朱い色をしている。
 その朱は、もう血など流れていないはずの、二人のもの。


 「この掌に残された君の証
  嗚呼
  もう二度と 離れぬように
  朱い糸を 君と僕に」

 彼は呟く。呟きながら、地下へ引き摺られていく。

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