嶽本野ばら 『エミリー』
2008年12月4日 おすすめの本一覧
短編『readymade』、『corset』、そして表題作『emily』を収録した一冊。
この一冊は、読み進めれば読み進めるほど読み手を葛藤させます。
『readymade』は誰もが読めるであろう作品。ミステリアスな異性に釣り合うよう、少し背伸びをしようとする主人公は共感を呼ぶでしょう。
『corset』は主人公が浮気相手となりやがて不倫相手となってしまうので、読む人を選んでしまうかもしれません。しかし、比較的平常心で読むことが出来そうです。現代という時代を生きていることに辟易し、常々「死にたい」と思い、実際に身辺整理をして自宅に縄をぶら下げて「今度こそ死のう」と思っていた主人公が、恋する相手を得たことで死のうと思わなくなる作品ですから。この作品の題となっているコルセットは体を締め付ける物です。主人公の「死にたい」という思いが、恋する相手の出現によって抑えられたからこの作品は『corset』なのかもしれません。
しかし表題作である『emily』は、読む人を選んでしまうでしょう。わたし自身、読んでいる途中で「もう読むのをやめてしまいたい」と幾度もこの本を閉じましたから。
『emily』を読んでいると、嗚呼、実際にこういう想いをしている人たちは現実に沢山いるのだろうな、と気付かされます。読んでいるだけで、自分自身が石つぶてを何十個も何百個も手加減なくぶつけられて血を流し、傷口から肉が見え、その傷口を狙ってまた石つぶてを投げられるような耐えがたい気分になるのです。
性犯罪。「いじめ」というたった3文字の言葉で片づけることは本来許されないはずの、「殺人未遂」と言うべき余りにも残酷な仕打ち。同性愛者への偏見、罵倒、嘲笑。
そういった事柄が、この『emily』では容赦なく描写されるのです。
はっきり言って、わたしは『emily』を読むことを他人にすすめたくありません。すすめてはいけない気がします。けれどすすめます、ごめんなさい。理由は以下の通り。
『emily』は番う(つがう)ことの幸福を感じさせてくれるのです。
『emily』では、自分が生きているということを実感できる場所を何処にも持てないような男女が出会い、番います。男は女を好ましいとは思っているけれど、男は女性という生き物を性的対象とすることが出来ないため、体が反応しません。女は恋の延長上に男を性的に求めるけれど、男の体が反応しない以上、性的に最後まで交わることは出来ません。どんなに試みても、駄目。だから2人は裸の身体と身体を重ねて眠るだけ。それだけだけれども、2人は、少なくとも女は、お互いの温かさや呼吸を感じ、お互いの身体が1つに溶け合うような感覚に到達します。そして思うのです。
「生まれてきて良かった」と。
この一冊は、読み進めれば読み進めるほど読み手を葛藤させます。
『readymade』は誰もが読めるであろう作品。ミステリアスな異性に釣り合うよう、少し背伸びをしようとする主人公は共感を呼ぶでしょう。
『corset』は主人公が浮気相手となりやがて不倫相手となってしまうので、読む人を選んでしまうかもしれません。しかし、比較的平常心で読むことが出来そうです。現代という時代を生きていることに辟易し、常々「死にたい」と思い、実際に身辺整理をして自宅に縄をぶら下げて「今度こそ死のう」と思っていた主人公が、恋する相手を得たことで死のうと思わなくなる作品ですから。この作品の題となっているコルセットは体を締め付ける物です。主人公の「死にたい」という思いが、恋する相手の出現によって抑えられたからこの作品は『corset』なのかもしれません。
しかし表題作である『emily』は、読む人を選んでしまうでしょう。わたし自身、読んでいる途中で「もう読むのをやめてしまいたい」と幾度もこの本を閉じましたから。
『emily』を読んでいると、嗚呼、実際にこういう想いをしている人たちは現実に沢山いるのだろうな、と気付かされます。読んでいるだけで、自分自身が石つぶてを何十個も何百個も手加減なくぶつけられて血を流し、傷口から肉が見え、その傷口を狙ってまた石つぶてを投げられるような耐えがたい気分になるのです。
性犯罪。「いじめ」というたった3文字の言葉で片づけることは本来許されないはずの、「殺人未遂」と言うべき余りにも残酷な仕打ち。同性愛者への偏見、罵倒、嘲笑。
そういった事柄が、この『emily』では容赦なく描写されるのです。
はっきり言って、わたしは『emily』を読むことを他人にすすめたくありません。すすめてはいけない気がします。けれどすすめます、ごめんなさい。理由は以下の通り。
『emily』は番う(つがう)ことの幸福を感じさせてくれるのです。
『emily』では、自分が生きているということを実感できる場所を何処にも持てないような男女が出会い、番います。男は女を好ましいとは思っているけれど、男は女性という生き物を性的対象とすることが出来ないため、体が反応しません。女は恋の延長上に男を性的に求めるけれど、男の体が反応しない以上、性的に最後まで交わることは出来ません。どんなに試みても、駄目。だから2人は裸の身体と身体を重ねて眠るだけ。それだけだけれども、2人は、少なくとも女は、お互いの温かさや呼吸を感じ、お互いの身体が1つに溶け合うような感覚に到達します。そして思うのです。
「生まれてきて良かった」と。
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