*注*
 結末を明かすネタバレをしております。
 「ネタバレは嫌いだ」という方は以下の文を読まない方が良いです。
 




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 夜明け前に見たくなる作品。
 見終わった時ちょうど朝がきてくれたら本当に嬉しい。


 少々意地悪な言い方でこの作品のあらすじを説明するならば、この作品のあらすじは「青年が可愛い女の子に一目惚れした。青年には既に彼女がいるのだが、青年は彼女がいることを隠してその女の子に告白し、女の子と交際し始める。やがて青年は女の子が解離性同一性障害(いわゆる多重人格)であり、女の子の中に男の人格がいること、しかもその男の人格が女の子に恋しているということを知る。青年は男の人格に女の子と会うなと言われショックを受けた。青年は、女の子が今後どんな男を好きになったとしてもこの男の人格がその恋を妨害してしまい女の子はいつまでも幸せになれないだろう・・・と考えた。青年は男の人格に女の子の幸せを考えるよう訴えた。男の人格は女の子のことがとても大事だったので自らが消滅することを選んだ。青年はその際、男の人格と約束をした。その約束とは男の人格が消滅する前に男の人格が現れている時の女の子の写真を撮っておき、男の人格が消滅した後でその写真を女の子に見せる・・・というもの。青年はその約束を果たしたので、友人との約束を守った、と満足しているようだ。しかし青年が結局彼女と別れて女の子と真剣に交際し始めたのかは不明であるし、男の人格がいなくなったことが女の子にどんな悪影響があるかはわからないまま物語は終わる」・・・というあらすじになると思います。

 このあらすじの書き方でわかると思いますが、わたしは青年のことが余り好きではありません。男の人格の方が好き。女の子を愛しているからこそ消えていく男の人格が、愛おしくて切なくてならないのです。
 男の人格は、女の子の両親が突然亡くなってしまった時から女の子の中に生まれました。男の人格は女の子と手紙のやりとりをしながら女の子を励まし続けてきました。ただし、女の子の中に他の人格がいるということが女の子に気づかれぬように、どこかに一人の人間としての体を持って存在する男の子のフリをしながら。その理由はこの作品の中でハッキリとは語られませんが、それはきっと、女の子が「なぜ自分の中に他の人格がいるのか」を考える時、幼い頃両親は遊園地からの帰り道に交通事故で亡くなった、わたしが遊園地に行きたいと言わなければ両親は死なずに済んだのに・・・!!と再び自分を責めるかもしれないという理由でしょう。だからこそ男の人格はずっとずっと、静かに、手紙だけを通して女の子を見守り続けてきたのです。
 わたしは男の人格が割れた鏡にキスをするシーンが好きです。男の人格は、女の子の中に存在するが故に、女の子に触れることが出来ません。自分の正体を女の子に知らせることも出来ません。そんな想いの中、愛しい女の子の姿が映った鏡にキスをする・・・。・・・胸が締め付けられます。
 女の子を愛しているからこそ、青年に「女の子の幸せのため」と言われた男の人格は消えることを選びました。もっと女の子を守り続けていたい、離れるのは嫌だ、そう苦しみながらも。
 青年の父親も言っているのですが、男の人格は女の子にとって必要だから存在していたはず。わたしも、誰かの中に他の誰かがいたからとしても必ずしも人格を統合したりする必要はないという考えを持っています。だから青年の行動が考えなしの行動にしか思えません。男の人格は消えたのではなく死んだのだとしか思えません。純粋すぎて美しすぎて、哀れです。


 ああ、悲しいです。
 この作品に流れるリストの曲が、まるで男の人格が流す涙の音のように聴こえて。


 けれど結末で女の子は晴れやかな表情をしています。それが何よりの救い。
 男の人格はいなくなってしまったけれど、その深い愛が女の子の心に沁み込んで、女の子の心はいつまでもいつまでも平安なままなのだ・・・とわたしは信じることに致します。
 そして女の子がこれからも夢に見続けると嬉しいです、「すごく大切な誰かなんだけど、思いだせない」人のことを。

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