幻想絵画の中でも有名な作品をピックアップしている本です。
 しかし幻想絵画はどの作品も基本的にマニアック。そのせいでしょうか、「一体どんな妄想をしたらこんな絵を描けるの?」と困惑させられる絵画も多数見受けられます。ある意味ではそんなところがマニア心をくすぐるのかもしれません、幻想絵画って。


 例えば、P17で紹介されている、Giuseppe Arcimboldoの作品『春』(ルーヴル美術館蔵)にわたしは衝撃を覚えました。
 これはGiuseppe Arcimboldoが春という季節を擬人化し、人の頭から胸あたりまでを草花に例えて描いた絵です。髪も、目も、頬も、耳も、衣服も、人体のあらゆるものが花びらや葉の集合によって形作られているように見えます。
 ・・・正直言って、わたしは天然痘など皮膚にも症状が出てくる病気をひときわ恐れているので、この絵で描かれる人物の頬や瞳にゾクリとしてしまいました。しかしジックリと見てみれば、この作品の斬新さは称賛に値しますし、だんだんこの人物がユーモラスに見えてきて親しみも抱くことが出来そうです。「・・・やっぱ駄目だ天然痘に見える、・・・いやしかしこの独創性は凄い」。そんな風にわたしは唸りながらこの絵を見つめ続けます。見つめ続けるわけですから、わたしはこの絵が好きなのでしょうね。


 『春』は描き手の意図が推測できるので他の作品よりも人にすすめやすいですが・・・。P11で紹介されているHieronimus Boschの『快楽の園』(プラド美術館蔵)はどうでしょうか。
 この作品には、作品名の通りエデンの園を追われた人間の辿る運命が描かれているようです。この絵の左側には地上の楽園が、中央には好色の罪が、右側には地獄が描かれています。きっと人間もこの絵で描かれるように、左から右へと状態を移ろわせているのでしょう。・・・しかし左側には、あたかも『犬神家の一族』を彷彿とさせる姿で、湖から脚を出している人物が描かれています。この人物は股を大きく広げたまま犬神家ポーズ(水面から脚を出しているが顔は見えない、というポーズをわたしは勝手に犬神家ポーズと呼んでいます)をしており、股の間に大きくて丸くて赤い果実のようなものを乗せており、その果実のようなものには鳥が2羽乗っかっています。
 ・・・意味不明です。わたしはこの絵の人物に語りかけました、「苦行中なのですか?」と。この絵においては右下に描かれているアダムとイヴと思しき人物2人に注目が集まりがちなのですが、わたしはこの謎の苦行者(?)から目が離せません。


 P23で紹介されているPhilipp Otto Rungeの『朝(大)』(ハンブルク美術館蔵)などは純粋に美しいです、なんたって女神さまを描いていますしね、しかも朝日を司る女神を。 
 P38で紹介されているJohn Martinの『忘却の水を探すサダク』(サウサンプトン市立美術館)も崇高。岩山の向こうで燃え盛る炎が描かれています。不思議ですね、炎は恐ろしいものであるはずなのに、わたしはその炎の色に何故だか見惚れます。この作品は、炎は人を守ってくれる懐かしいものでもある、ということを思い出させてくれます。
 P105で紹介されているIl’ya Repinの『サトコ』(ロシア美術館蔵)は特にわたしのお気に入り。海底を照らす、ぼんやりとしていてあたたかそうな光・・・。海で暮らす生き物たちが芸術品に見えます。わたしもこんな世界へ行ってみたいです。そして、泡となった人魚姫がただの泡として消えてしまわぬよう、こんな綺麗な光のある海の中で、その泡を大事に包み込みたい。・・・別にアンデルセンの『人魚姫』がこの作品のモチーフとなったわけではないのに唐突にこんなことを思ってしまい、恐縮です。けれどそんな想いを強く抱いてしまうのです。


 ・・・そんな美しい作品も多数ありながらも・・・、やはりSalvador Daliの作品のインパクトは測りしれません!彼の場合は人物的にも強烈なわけですけれど。・・・わたしが幻想絵画に興味を抱くきっかけとなったのは彼の作品なんですけれどもね・・・。妄想を飛び越えて、「なんじゃこりゃ!」の世界ですよね全く。彼は天才なのでしょうか変態なのでしょうか? 変態です。変態だから天才なのです、彼は。嗚呼、そんな彼の作品に引き込まれてしまいます。これは喜ぶべきことなのでしょうか嘆くべきことなのでしょうか。喜びますよポジティブシンキング!

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