短編小説集。「伊良部シリーズ」の3作目です。
 自分自身が高齢者となった時、わたしはこの本の冒頭に収録されている『オーナー』を読み返したくなると思います。


 高齢な主人公は、他の同期が第一線を退いていっても地位ある役職を守り通しています。
 しかし主人公は・・・時折パニックを起こします。
 カメラが焚くフラッシュと、暗闇と、狭いところに対して。
 そのため主人公は伊良部医師の神経科を受診するのです。
 伊良部は「パニック」という極めて適切な診断を下しました。伊良部はやっぱり名医なのだと思います。

 
 強い光は、人が死に臨む時に感じるという光を彷彿とさせる。
 暗闇は、沈黙は、死を思わせる。
 その狭い世界は、棺桶。


 主人公は、いつの間にか自分が死んでしまっている、そんな事態を恐れていたのです。
 自分が成さねばならぬことがまだまだ沢山あるから。


 ・・・大分ネタバレをしてしまい申し訳ありません。続きは小説を読んで確かめてください。
 この短編集『町長選挙』は、表題の『町長選挙』以外の作品は明らかに実在の人物をモデルにして書いてあるため評価が分かれがちですが、それでもやっぱり面白いですよ。伊良部が名医ぶりを発揮している分、伊良部のはちゃめちゃ振りを期待する人には物足りないかもしれませんが。今までの伊良部シリーズ作品より、「考えさせる」要素が濃くなっていると感じます。

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