現実が残酷であればあるほど空想の世界は美しくなっていきます。
 空想の世界を持たなければ生きていけないから。正気を保てないから。
 他人から見れば既に正気ではないのでしょうけれど。
 自殺せずに生き続けるためには狂うしかない、そんな現実もあるのです。


 この映画『パンズ・ラビリンス』の舞台は拷問・殺人が日常化した独裁政権下。
 きちんとした取り調べもないまま罪を着せられ処刑されることも当たり前。
 鼻をめった打ちにして完全に叩き潰した上で銃殺するなど、その非道さは留まるところを知りません。
 そんな世界で生きざるを得ない女の子が、「自分は本当は別の世界の王女で、試練を果たせば王女に戻れる」と空想する…それがこの映画のストーリーです。


 けれど女の子が生きる現実の残酷さ故にでしょうか、女の子が想像する「王女の帰還を待ち望んでいる別の世界の生き物」たちは、決して清らかではなく、どこか恐ろしい姿をしています。
 それでも女の子はその世界を信じ抜こうとしました。
 女の子は結局撃たれて死ぬのですが…、その瞬間も微笑んでいました。
 死の恐怖さえも、王国に戻るための試練と信じて。


 …見ていて非常にやり切れない思いになりました。
 きっとこの女の子のような子どもは、実際に何人もいるだろうから。
 戦争だけではなく、虐待などあらゆる悲しいことのせいで…。


 けれどもしも、女の子が思い描いていた王国が、人が生まれる前にいる世界のことだとしたら。そして人が死ねばその世界に帰っていくのだとしたら。
 この結末は単なるアン・ハッピーエンドではない。
 そう希望を持てる気がします。

 
 
むかしむかし、地底の世界に病気も苦しみもない王国がありました。その国には美しい王女様がおりました。王女様はそよ風と日の光、そして青い空をいつも夢見ていました。ある日、王女様はお城をこっそり抜け出して人間の世界へ行きました。ところが明るい太陽の光を浴びたとたん、彼女は自分が誰なのか、どこから来たのかも忘れてしまったのです。地底の王国の王女様はその時から寒さや痛みや苦しみを感じるようになり…、とうとう彼女は死んでしまいました。姫を亡くした王様は悲しみましたが、いつか王女の魂が戻ってくる事を知っていました。そしてその日が来る事をいつまでも、いつまでも待っているのでした。

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