小川糸『つるかめ助産院』
2012年12月4日 おすすめの本一覧 コメント (2)
※注※ このレビューには、この小説の結末に関するネタバレがあります。
赤ちゃんを産むまでのプロセスを、愛情たっぷりに描いた小説。
「遙か彼方にいる人達とも、すべてがへその緒を通してつながっているのだ」(P206から抜粋)、「自分のおへそからしゅるしゅるとへその緒が伸びて、宇宙へとつながっていくのを感じた」(P231から抜粋)といった表現が素敵!
しかしこの小説は、話の核となる重要人物「小野寺くん」が唐突にいなくなり、唐突に登場したかと思えば、すぐ結末を迎えるので、読み手は肩透かしを食らったような気分になりかねません。
けれどわたしはこう思うのです。
「パーラーさすらい」のオーナーこそ、小野寺くんではないかと。
『つるかめ助産院』のあらすじは以下の通り。
主人公・小野寺まりあの夫「小野寺くん」が失踪。
小野寺くんは、職場に辞表を出し、ケータイも含む全ての荷物を置いたまま、突然いなくなりました。
まりあは、かつて小野寺くんと婚前旅行した南の島のことを思い出し、もしかしたらそこで小野寺くんに会えるかもしれない…と微かな期待を抱いて、その島を訪れます。
まりあは島を歩いていた時、「つるかめ助産院」の院長・鶴田亀子に「もしかしてさすらいを探しに来た人? 『パーラーさすらい』っていうラーメン屋を探しに来た人かと思ったのよ」と声をかけられたことをきっかけに亀子と親しくなり、そして、まりあは自分が小野寺くんの赤ちゃんを身ごもっていることを知ります。
まりあはつるかめ助産院で働き始めます。
まりあは、亀子だけではなく、パクチー嬢や、サミーや、「マリリンの旦那、探して連れてきてやらんとなー」と言ってくれた長老(その後海で死亡)や、「育む人たち」(この小説では妊婦という表現をしないのです)等との出会いによって、少しずつ心がほぐれていきます。
まりあは、自分のお腹の中の赤ちゃんがどんどん大きくなっていくことや、自分自身のこれまでの人生と向き合いました。
まりあは出産前になってからようやく、亀子との出会いのきっかけとなった「パーラーさすらい」ののれんをくぐります。そこで出会った「パーラーさすらい」のオーナーは、女性の格好をした男性。性同一性障害なのかどうか等についてはハッキリと描かれないのですが、オーナーは濃い化粧をしており、いわゆるオネエ言葉で話します。オーナーは店内に、線の細い女性の写真を飾っています。オーナーはまりあのお腹に触れ、「うちのヨメにも、ガキを孕ませてやりゃあよかったのよね」と言いました。
まりあはやがて出産。
小野寺くんは、その出産に合わせて、突然まりあの元へやって来ます。
まりあは小野寺くんに、どこに行ってたの、とか、どうして居なくなったの、といったことは聞きませんでした。
まりあと小野寺くんは、「おかえりなさい」「ただいま」と短い会話を交わします。
小野寺くんは、夢の中に現れた変なおじいさんに導かれてこの島に来た、と説明し、まりあは「長老が、私との約束を守って、本当に小野寺くんをこの島へと導いてくれたのだ」(P260から抜粋)と考えます。
そして、まりあは小野寺くんと赤ちゃんと共に、船で島を離れます。
それを、島のみんなが見送ってくれます。
それでこの小説はおしまい。
…余りにもアッサリ終わるので、「小野寺くんがどこに行っていたのか、なぜ失踪したのか、どうして明らかにしないんだ?」と違和感を感じる読者は少なくないことでしょう。
しかし、「パーラーさすらい」のオーナーと小野寺くんが同一人物だったとしたら?
これは単に、わたしの勝手な想像なのですが…。
もしも、亀子が「パーラーさすらい」に飾ってある、まだ妊娠しておらず線が細かった頃のまりあの写真(もちろん、実際にまりあの写真なのかどうかは分かりませんが)を見て、最初からまりあのことを知っていた上で、まりあをつるかめ助産院に導き、やがては「パーラーさすらい」へと導いたのだとしたら?
まりあが自分の夫を「小野寺くん」と、なぜか姓で呼び続け、一度も名前で呼ばないことに、深い理由があるのだとしたら? それは、単に夫婦の心に距離があることを示しているのかもしれませんが、もし、男性としての名前で呼ぶことに抵抗があったのだとしたら?
小野寺くんが今までの、男性としての人生を捨て去りたくて、だからこそケータイも持たずに失踪したのだとしたら? そして以前婚前旅行で訪れた島に住み始めたのだとしたら?
小野寺くんが、島の住人として最初から長老の存在を知っていた、或いは、本当に小野寺くんが長老の夢を見たのだとしても、そもそも島に居たからこそまりあの出産にジャストタイミングで駆けつけられたのだとしたら?
…世の中には色んな人が居ます。単に女装が好きなだけで恋愛対象は女性だ、という男性も居るし、男性も女性も恋愛対象だという女装好きの男性も居るし…。性というのは、本当に人それぞれです。
考え過ぎかもしれませんが、わたしは小野寺くんが「パーラーさすらい」のオーナーと同一人物だとしか思えないのです。
赤ちゃんを産むまでのプロセスを、愛情たっぷりに描いた小説。
「遙か彼方にいる人達とも、すべてがへその緒を通してつながっているのだ」(P206から抜粋)、「自分のおへそからしゅるしゅるとへその緒が伸びて、宇宙へとつながっていくのを感じた」(P231から抜粋)といった表現が素敵!
しかしこの小説は、話の核となる重要人物「小野寺くん」が唐突にいなくなり、唐突に登場したかと思えば、すぐ結末を迎えるので、読み手は肩透かしを食らったような気分になりかねません。
けれどわたしはこう思うのです。
「パーラーさすらい」のオーナーこそ、小野寺くんではないかと。
『つるかめ助産院』のあらすじは以下の通り。
主人公・小野寺まりあの夫「小野寺くん」が失踪。
小野寺くんは、職場に辞表を出し、ケータイも含む全ての荷物を置いたまま、突然いなくなりました。
まりあは、かつて小野寺くんと婚前旅行した南の島のことを思い出し、もしかしたらそこで小野寺くんに会えるかもしれない…と微かな期待を抱いて、その島を訪れます。
まりあは島を歩いていた時、「つるかめ助産院」の院長・鶴田亀子に「もしかしてさすらいを探しに来た人? 『パーラーさすらい』っていうラーメン屋を探しに来た人かと思ったのよ」と声をかけられたことをきっかけに亀子と親しくなり、そして、まりあは自分が小野寺くんの赤ちゃんを身ごもっていることを知ります。
まりあはつるかめ助産院で働き始めます。
まりあは、亀子だけではなく、パクチー嬢や、サミーや、「マリリンの旦那、探して連れてきてやらんとなー」と言ってくれた長老(その後海で死亡)や、「育む人たち」(この小説では妊婦という表現をしないのです)等との出会いによって、少しずつ心がほぐれていきます。
まりあは、自分のお腹の中の赤ちゃんがどんどん大きくなっていくことや、自分自身のこれまでの人生と向き合いました。
まりあは出産前になってからようやく、亀子との出会いのきっかけとなった「パーラーさすらい」ののれんをくぐります。そこで出会った「パーラーさすらい」のオーナーは、女性の格好をした男性。性同一性障害なのかどうか等についてはハッキリと描かれないのですが、オーナーは濃い化粧をしており、いわゆるオネエ言葉で話します。オーナーは店内に、線の細い女性の写真を飾っています。オーナーはまりあのお腹に触れ、「うちのヨメにも、ガキを孕ませてやりゃあよかったのよね」と言いました。
まりあはやがて出産。
小野寺くんは、その出産に合わせて、突然まりあの元へやって来ます。
まりあは小野寺くんに、どこに行ってたの、とか、どうして居なくなったの、といったことは聞きませんでした。
まりあと小野寺くんは、「おかえりなさい」「ただいま」と短い会話を交わします。
小野寺くんは、夢の中に現れた変なおじいさんに導かれてこの島に来た、と説明し、まりあは「長老が、私との約束を守って、本当に小野寺くんをこの島へと導いてくれたのだ」(P260から抜粋)と考えます。
そして、まりあは小野寺くんと赤ちゃんと共に、船で島を離れます。
それを、島のみんなが見送ってくれます。
それでこの小説はおしまい。
…余りにもアッサリ終わるので、「小野寺くんがどこに行っていたのか、なぜ失踪したのか、どうして明らかにしないんだ?」と違和感を感じる読者は少なくないことでしょう。
しかし、「パーラーさすらい」のオーナーと小野寺くんが同一人物だったとしたら?
これは単に、わたしの勝手な想像なのですが…。
もしも、亀子が「パーラーさすらい」に飾ってある、まだ妊娠しておらず線が細かった頃のまりあの写真(もちろん、実際にまりあの写真なのかどうかは分かりませんが)を見て、最初からまりあのことを知っていた上で、まりあをつるかめ助産院に導き、やがては「パーラーさすらい」へと導いたのだとしたら?
まりあが自分の夫を「小野寺くん」と、なぜか姓で呼び続け、一度も名前で呼ばないことに、深い理由があるのだとしたら? それは、単に夫婦の心に距離があることを示しているのかもしれませんが、もし、男性としての名前で呼ぶことに抵抗があったのだとしたら?
小野寺くんが今までの、男性としての人生を捨て去りたくて、だからこそケータイも持たずに失踪したのだとしたら? そして以前婚前旅行で訪れた島に住み始めたのだとしたら?
小野寺くんが、島の住人として最初から長老の存在を知っていた、或いは、本当に小野寺くんが長老の夢を見たのだとしても、そもそも島に居たからこそまりあの出産にジャストタイミングで駆けつけられたのだとしたら?
…世の中には色んな人が居ます。単に女装が好きなだけで恋愛対象は女性だ、という男性も居るし、男性も女性も恋愛対象だという女装好きの男性も居るし…。性というのは、本当に人それぞれです。
考え過ぎかもしれませんが、わたしは小野寺くんが「パーラーさすらい」のオーナーと同一人物だとしか思えないのです。
コメント
読んでみて私もさすらいのマスターと小野寺君は同一人物だと感じました。読み返してみてより確信を強く持ちましたが、そのような見解をされているのがこのブログしか見当たらず。。。
もしもさすらいのマスターと小野寺君が同一人物であれば小説全体としてとても綺麗にまとまっていて良い作品ですよね。
すっきりさせて戴きました。ありがとうございます。
パーラーさすらいのオーナーは小野寺くんと同一人物、と考える方がいて嬉しいです。
この小説って、もしオーナーと小野寺くんが別人だとしたら、伏線を一切回収しないまま謎ばかりが残ってしまいますよね。
さらさんがおっしゃる通り、まさに消化不良のまま終わってしまいます。
ところが、オーナーと小野寺くんが同一人物だと考えると、全ての辻褄が合うんですよね。
例えば、普通ならまりあが小野寺くんに「どこに行ってたの」とか「どうして居なくなったの」と聞くのが自然だと思うんですが、まりあは聞きません。
それは、まりあがパーラーさすらいのオーナーとしての小野寺くんと既に会っていたからであり、いわゆるオネエ言葉で濃い化粧をしているその様子から失踪の理由を察したからである…と考えるなら、まりあがわざわざ小野寺くんを深く追求しないのも納得ですよね。
ただ、もし本当に同一人物だとしたら…、まりあと赤ちゃんと島を去ることが果たして小野寺くんにとって幸せなのかどうか分かりませんよね。
しかし、もしかしたらオーナーと小野寺くんは別人であり、まりあは理由はともかく小野寺くんを許すことにしたのかもしれませんし、小説って色んな解釈が出来て面白いですね。