泰王が殺されたとの嘘を伝えられ、自らもまた裏切り者に斬られてしまい、麒麟の象徴たる角を抉られてしまった泰麒。
 泰麒があげた悲鳴によって鳴蝕が発生、その鳴蝕に乗って、泰麒は蓬莱まで逃げ延びる…、という怒濤の展開でこの『黄昏の岸 暁の天』上巻は始まります。

 蓬莱は、かつて泰麒が子ども時代を過ごした場所。
 自分が本当は蓬莱へ流されてしまった麒麟であるということなど知る由もなく、自分は高里要という名前の人間の子どもだと信じて日々を過ごした世界。
 周囲の人々は泰麒が普通の子どもとは違うことを本能的に察し、疎んでいたから、泰麒は決して幸福に満ちた子ども時代を蓬莱で送れたわけではありません。
 しかし、意識的にしろ無意識的にしろ、とっさの逃げ場所として泰麒が選んだのが蓬莱であり、しかもかつての生家だったことに…、読んでいて複雑な気分にさせられました。
 これまでの境遇がどうであったとしても懐かしい故郷へ帰れたのだから、喜ぶべきなのか。
 それとも、そこしか逃げ込める場所がなかったのだ、と哀れむべきなのか。
 
 恐ろしい体験をしたせいなのか、それとも麒麟の象徴たる角を大きく損なってしまったせいなのか、泰麒は麒麟としての記憶をすっかり失ってしまいました。
 そのため、泰麒…つまり高里要は、神隠しにあっただけでなく神隠しから帰ってきた子どもとして扱われることに。
 しかし、最初は高里要の帰還を喜び、同情してくれた人々が、気味悪がって物を投げてくるようになるには、たいして時間はかかりませんでした。

 高里要として生きていくのが幸せなのか。
 泰麒としての記憶を取り戻すべきなのか。
 泰王は本当に反逆者によって命を落としたのか。

 続きが気になるのですが、続きを知ってしまうのがなんだか怖いので、しばらく日を置いてから下巻を読みたいと思います。

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