『月の影 影の海』から『黄昏の岸 暁の天』上下巻まで読んでからこの『魔性の子』を読んで、本当に良かった。
 もし、「『魔性の子』は十二国記のサイドストーリーとして執筆された物だ。とはいえ、十二国記として最初に出版された訳だから、十二国記を読み始めるにあたっては、当然『魔性の子』から読むべきだ」とわたしが『魔性の子』から手に取っていたとしたら…。
 90%くらいの確率で、わたしは「な、な、なんじゃこりゃあぁぁ!」と某俳優のような叫び声を心の中で轟かせ、十二国記を読むこと自体に挫折していたに違いありません。

 なぜなら、『魔性の子』においては、あらゆる登場人物に向かって、これでもかこれでもかと不幸が押し寄せてくるから。
 怪我を負っただけで済んだ者はまだいい。
 大怪我を負った者や、無残に殺害された者も大勢いるのですから。
 だから、もしわたしが予備知識なしで『魔性の子』を読んでいたとしたら、なぜ高里が神隠しにあい、そしてなぜ神隠しから帰って来たのか、なぜ高里の守護者であるはずの者たちが高里の周りの人々を襲撃するのか、なぜ高里の家族が惨殺されたのか、高里を探してさまよっていた女性は何者なのか、何が何だかさっぱり分からなかったと思います。

 『月の影 影の海』から『黄昏の岸 暁の天』上下巻まで読んできたからこそ、事情がわかる。
 わかるからこそ、この『魔性の子』の内容がなお辛い。
 心を抉る。
 『魔性の子』P326辺りにおいては、高里の母親が本来ちゃんと高里のことを愛していたことが書かれています。
 『黄昏の岸 暁の天』では、好き嫌いは良くない、と高里の今後の成長のことを思って、両親が高里に肉を食べさせるシーンが描かれています。まさか我が子が本当は麒麟で、肉を食べることは身体に良くないだなんて、両親は知る由も無かったから。…そのせいで、高里の守護者である白汕子(はくさんし)と傲濫(ごうらん)に「毒を盛られている」と敵視されるなんて…。
 悲劇、というありきたりな表現は使いたくないけれど、悲劇と言わずして何と言いましょうか。

 『魔性の子』から読むべし、という意見もあるかもしれませんが、もしこれから十二国記を読み始める方がいたら、是非、『月の影 影の海』から『黄昏の岸 暁の天』上下巻まで読んでから『魔性の子』を読むことをわたしはおすすめします。

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