江戸川乱歩『双生児』
2014年10月15日 おすすめの本一覧
短編小説『双生児(ある死刑囚が教誨師にうちあけた話)』、『一人二役』、『ぺてん師と空気男』、『百面相役者』、『一寸法師』を収録した文庫本。
どの作品も、自分以外の誰かを演じる人物が登場します。
表題作『双生児』は、双子の兄を殺して兄になりすまそうとした男の話。
『一人二役』は、ふとした好奇心から架空の男に変装して、妻が浮気心を起こさないか確かめようとした男が、なんと架空の男として本当に妻との間に恋心を芽生えさせてしまったため、本来の自分を捨ててその架空の男として生きていこうとする話。
『ぺてん師と空気男』は、仕事が続かず母親からの仕送りに頼って生活していた男(空気男)が主人公。
空気男は、ある日、不思議な魅力を持つ男(ぺてん師)と出会います。
ぺてん師は、いわゆるドッキリに近い悪戯を見事に成功させてゆきます。
なぜドッキリに「近い」のかというと、ぺてん師は、悪戯を仕掛けられた人たちに「ドッキリ大成功!」のようにネタばらしをしないので、みんな自分が悪戯を仕掛けられたことにさえ気づかないからです。そういうみんなの様子も含めて、ぺてん師は愉快がるのです。
誰も損をしないけれど得もしない、そんなことを「ジョーク」として幾つも考え出しては必ず成功させるぺてん師に、空気男はすっかり魅了されてしまいます。
空気男とぺてん師は、友人と呼べるほど親しい関係になるのですが、やがてぺてん師は空気男を一世一代のジョークの被害者として選んでしまいます。
『一寸法師』は、主人公は小林紋三という男ですが、江戸川乱歩ファンお馴染みの探偵明智小五郎が登場し、紋三と共に令嬢失踪事件の謎解きに挑みます。
バラバラ殺人事件の話なので、残酷な描写が苦手だという方にはおすすめできませんし、また、差別用語も頻繁に使われているので、読む人を選ぶ作品です。
わたしの心に一番引っかかったのは『ぺてん師と空気男』です。
ぺてん師が空気男と知り合ってそう経たない頃に話した「ぼくもときどき恐ろしくなってくることがある。ジョークに深入りして、今に犯罪の方へ移っていくのじゃないかという恐怖だね」という言葉と、一世一代の悪戯を成功させた後でぺてん師が空気男に語った「本当の罪を犯すことは絶対に避けたかった。それでは折角のジョークが映えなくなってしまうからね」という言葉を読み比べてみて…、…わたしは違和感のようなものを感じました。
もし犯罪を犯すことでよりいっそうジョークが映えたとしたら、このぺてん師は犯罪さえも簡単にやってのけたかもしれない、とわたしには思えました。
この文庫に収録されている中では、『一寸法師』が一番グロテスクな作品なのですが、わたしには『ぺてん師と空気男』のぺてん師のほうが、より得体が知れない、何をしでかすかわからない存在のように感じられ、怖くなりました。
どの作品も、自分以外の誰かを演じる人物が登場します。
表題作『双生児』は、双子の兄を殺して兄になりすまそうとした男の話。
『一人二役』は、ふとした好奇心から架空の男に変装して、妻が浮気心を起こさないか確かめようとした男が、なんと架空の男として本当に妻との間に恋心を芽生えさせてしまったため、本来の自分を捨ててその架空の男として生きていこうとする話。
『ぺてん師と空気男』は、仕事が続かず母親からの仕送りに頼って生活していた男(空気男)が主人公。
空気男は、ある日、不思議な魅力を持つ男(ぺてん師)と出会います。
ぺてん師は、いわゆるドッキリに近い悪戯を見事に成功させてゆきます。
なぜドッキリに「近い」のかというと、ぺてん師は、悪戯を仕掛けられた人たちに「ドッキリ大成功!」のようにネタばらしをしないので、みんな自分が悪戯を仕掛けられたことにさえ気づかないからです。そういうみんなの様子も含めて、ぺてん師は愉快がるのです。
誰も損をしないけれど得もしない、そんなことを「ジョーク」として幾つも考え出しては必ず成功させるぺてん師に、空気男はすっかり魅了されてしまいます。
空気男とぺてん師は、友人と呼べるほど親しい関係になるのですが、やがてぺてん師は空気男を一世一代のジョークの被害者として選んでしまいます。
『一寸法師』は、主人公は小林紋三という男ですが、江戸川乱歩ファンお馴染みの探偵明智小五郎が登場し、紋三と共に令嬢失踪事件の謎解きに挑みます。
バラバラ殺人事件の話なので、残酷な描写が苦手だという方にはおすすめできませんし、また、差別用語も頻繁に使われているので、読む人を選ぶ作品です。
わたしの心に一番引っかかったのは『ぺてん師と空気男』です。
ぺてん師が空気男と知り合ってそう経たない頃に話した「ぼくもときどき恐ろしくなってくることがある。ジョークに深入りして、今に犯罪の方へ移っていくのじゃないかという恐怖だね」という言葉と、一世一代の悪戯を成功させた後でぺてん師が空気男に語った「本当の罪を犯すことは絶対に避けたかった。それでは折角のジョークが映えなくなってしまうからね」という言葉を読み比べてみて…、…わたしは違和感のようなものを感じました。
もし犯罪を犯すことでよりいっそうジョークが映えたとしたら、このぺてん師は犯罪さえも簡単にやってのけたかもしれない、とわたしには思えました。
この文庫に収録されている中では、『一寸法師』が一番グロテスクな作品なのですが、わたしには『ぺてん師と空気男』のぺてん師のほうが、より得体が知れない、何をしでかすかわからない存在のように感じられ、怖くなりました。
コメント