短編『屋根裏の散歩者』『人間豹』『押絵と旅する男』『恐ろしき錯誤』を収録した短編小説集。

『人間豹』にかなりの量のページが割かれており、他の作品は比較的さらりと読めます。


『屋根裏の散歩者』は下宿の屋根裏をこっそり歩いてみんなの様子を覗き見して楽しむだけでなく、気に食わない相手を天井から毒薬を垂らして殺す男の話。
この男は世の中を馬鹿にしているため、愚かにも、探偵・明智小五郎をわざわざ殺人現場へ招き入れてしまいました。


『人間豹』は、文字通り、人間でありながら豹でもある男が美女たちを殺していく話。
この人間豹は手強い奴で、明智小五郎をもってしても、なかなか捕まえることが出来ません。
ついには明智小五郎の愛妻・文代さんまでもが狙われました!
普段は余裕のある名探偵も、これには顔が真っ青になりました。


『押絵と旅する男』は、おそらく、二次元のキャラクターに恋したことがある、或いは現在も恋している人なら共感できる話です。
ある男が押絵に描かれた女性に一目惚れ。
男はその女性が生身の人間でないと分かっていながら恋焦がれた挙句、不思議な遠目がねの力を借りて、なんと自ら押絵の世界に入っていってしまいました。
そのため、その男の弟が押絵を持ち歩いては、旅先の風景を押絵の中の二人に見せてあげている、というストーリー。
…この男を羨ましがる人はきっと少なくないでしょう。
…たとえ、もともと二次元の存在である相手は年を取らずいつまでも美しいままなのに、もともと生身の人間である自分だけが押絵の中で年老いていこうとも。
恋しちゃったものは仕方ないのですから。


『恐ろしき誤算』は、妻を火事で失った男が、ちゃんと避難していたはずの妻がなぜ焼け死んでしまったのか疑問を抱き、妻を死なせた犯人を突き止めようとする話。
この犯人については様々な解釈が出来そうです。
男がこの人物こそ犯人と思って追い詰めた人物がまさに真犯人だった、でも思わぬ反撃をしてきた、とも解釈出来る。
最初から犯人なんて存在しなくて、火事で奥さんの気が動転していただけ、とも解釈出来る。
犯人の存在を匂わせた別の人物こそが真犯人で、男は真犯人に踊らされていただけ、とも解釈出来る。
或いは、早い段階で男がシロと思った人物たちの中に真犯人がいた、とも解釈出来る。
犯人を探そうとする男自身がはじめから狂っていたのだ、とも解釈出来る。
色んな見方が出来る小説です。

江戸川乱歩の小説はどれも味わい深いですね。

コメント

お気に入り日記の更新

最新のコメント

日記内を検索