※注意※ 結末を明かすネタバレがあります!

不倫して妊娠し、不倫相手の頼みで中絶した結果、子どもを産めない体になった女性が、不倫相手とその妻の間に生まれた赤ちゃんを連れ去って自分で育てる…という小説。

この女性がしたことは勿論犯罪だけれど、不倫相手の妻が女性に言い放った「あなた、自分の子どもを殺したんでしょう。信じられない。あんたが空っぽのがらんどうになったのはその罰じゃないの。殺された子どもが怒ってんだよ。ざまあみろ」(P60から抜粋)という言葉には、何て言ったらいいのでしょう、ものすごくモヤモヤしました。

確かに中絶は殺人です。
殺された子どもの気持ちを想像すると、この女性の味方なんて出来ない。
強姦されて妊娠した、などの事情ではなく、合意の上で性的関係を持つのなら、妊娠したらちゃんと産みなさいよ、その覚悟がないなら最初からしないでよ、とも思います。
でも、子どもを産めない体になった女性に「がらんどう」「ざまあみろ」なんてひどい!
ああ、でもこの妻にとってこの女性は旦那と不倫した憎たらしい存在なのだから、罵倒したくもなるよな…、でもあなたの旦那だって悪いでしょ?
などなど、読んでいて色んなことを考え、物凄くモヤモヤしました。

女性が赤ちゃんを大事に育てるので、このまま逮捕されないでいて欲しいような、でもこの子を両親の元へちゃんと返して欲しいような、という風に読んでいて心が激しく揺れました。

結局、女性は逮捕されます。
当たり前ですよね、他人の子どもを連れ去ったんだから。
出来る限り早く逮捕されるべき。
でも、読んでいて心のどこかでズキンと痛みを覚えました。
自分が逮捕されるというまさにその時に、女性は「その子は朝ごはんをまだ食べていないの」と子どものことを心配していたから。

この小説はそこでラストを迎えるわけではありません。

この本の後半部分からは、連れ去られた子ども自身の視点で物語が描かれます。

実の両親のもとへ戻ったはいいものの、ここが自分の居ていい場所なのか分からなかったこと。
誘拐犯に育てられた子どもというレッテルを貼られただけでなく、父親が不倫をしていたこと、母親が不倫相手に嫌がらせをしたことが世間に知れ渡っていたため、引越しを余儀なくされたこと。

そして…、この子が大人になった後のことも描かれるのですが、なんと彼女は妻子ある男性と付き合い、妊娠してしまいます。
なんて運命の皮肉でしょうか!
しかもこの妻子ある男性も、かつて彼女の父親が不倫相手に言ったのと似たセリフを言って、彼女を丸め込もうとします。
…なんて皮肉でしょう。

でも彼女は、自分を誘拐した女性と同じ道を歩むことはありませんでした。
妻子ある男性へきっぱりと別れを告げ、お腹の子を中絶せずに産む決心をしました。

やがて彼女は、かつて自分を誘拐した女性とすれ違います。
再会した、とまでは言えないです。
お互いに、相手が誰なのか気づかなかったから。
でも、彼女を誘拐した女性は、事件から長い時が経った今でも彼女の幸せを祈っていました。
だからって誘拐犯という事実が消えるわけじゃないけれど、でも、読んでいて涙が出ました。

コメント

ANNA/NANA
2015年10月2日7:24

名作ですよね、これ。
色々考えさせられます。
私は小説は読んでませんが、これのドラマ(檀れい)と映画(永作博美)どちらも大好きです。まだご覧になったことがなければ是非お暇な時に!どちらも有名なのでネットなどにUPされてると思うので探してみてください。
あと今やってるNHKのドラマ「デザイナーベイビー」もちょっと違うけど、子供を欲しくても産めなかった夫婦が他人の子供を誘拐するという部分は八日目の蝉と似てるかもしれません。
このドラマはまだ始まったばかりですが面白いですよ。
誘拐は許されることではないけど、事情が事情なので気持ちは痛いほど分かるし自分が同じ立場だったらと思うと他人事とは思えない話ですね。

G−dark
2015年10月2日23:40

名作ですよね。
子どもを奪った側、子どもを奪われた側、子ども自身の気持ちなどが複雑に入りまじっていて。
御察しの通り、わたしはANNA/NANAさんとは逆に、小説だけ読んでいてドラマと映画は観ていません。
デザイナーベイビーも含めて、近いうちに観てみます。
教えてくれてありがとうございます。
自分が同じ立場だったら…と考えながら観るときっとすごく辛いでしょうけど、誰だっていつ自分がその立場に実際なるか分からないですもんね。
子どもを産み、育てる、という経験をわたしはまだする予定すら無いんですが、他人事ではなく自分のこととしてこの作品の映像を観ようと思います。

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