著…上野正彦『死体が教えてくれたこと』
誰かに殺された人が幽霊となって「自分は事故死でも病死でもなく殺されたんだ!」と言えれば良いのですが、まさに死人に口無し。

物言えぬ沢山の遺体を解剖し、死者の声なき声、すなわち死因を明らかにしてきた元監察医・上野先生。

先生の著書をわたしはこれまで何冊も読んできたのですが、この本は10代の若者に向けて書かれており、他の著書と比べるとかなり平易な文章なので、「上野先生の本って沢山出版されているから、どれから読めば良いのか分からない」という人におすすめです。

他の著書と違って、先生のプライベートな心情が吐露されているのもこの本の特徴です。
家族の死、ペットの死…。
どんなに遺体と向き合ってきた方でも、死に慣れるということは無くて、大切な人を見送る時はとても辛いということが伝わってきます。

いじめられて「死にたい」と思い詰めている子どもへのメッセージも書かれています。
今まさに苦しんでいる子は、本を開くのも辛いと思うけれど、どうか第4章のP153〜154だけでも読んで欲しいです。
「生きて欲しい」と書かれているから。

死にたい人などいない。
先生のおっしゃる通りだと思います。

いじめに限らず、様々な理由で自ら死を選ぼうとする大人にも読んで欲しいです。

わたし自身も今まで何度も死のうと思ったし、いまだに時々死んでしまおうと思うことがあるけれど、わたしが生き続けることで何かの形で少しでも誰かの役に立てる可能性があるかもしれないと思い、まだ生者の側に踏み止まっています。

この本に、

「退職してから、もう何十年もたった。監察医たちはあいかわらずいそがしく飛びまわっている。重い責任のある仕事をうけおってくれていることを、心強く思う。だがその反面、私は思うのだ。監察医がいらない世の中になったら、どんなにかいいだろうと。それは犯罪で亡くなったり、せつない理由で死んだりする人たちがいなくなるということだ。そんな世の中になったら、なんともうれしいことだ」
(P187から抜粋)

と書かれているのも印象的でした。

もう誰も、殺したり、殺されたり、自ら死んだりしない世の中にしていきたいです。

そんな先生はもう90歳になられるそうで、

かつて取材に来た記者に言われたという、

「先生ほど死者の人権を大切に守ってきた人はいません。もしも先生があの世に行ったときには、お世話になった2万人の死者たちが、花束を持って出迎えてくれるでしょう」
(P192から抜粋)

という言葉にしみじみしていたようですが、わたしは本当にそうなるような気がします。

残念ながら、誰もが死亡率は100%。
先生だって例外ではありませんから。

いつか彼岸で会いたい人に会えますように。

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