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マイク・フラナガン監督『ザ・ホーンティング・オブ・ブライマナー』
2020年10月28日 TV
〈作品紹介〉
※極力ネタバレを避けるため、この作品紹介では登場人物の名前を書きません。
Netflixオリジナルドラマ。
夜から明け方にかけて全9話を一気に観るのがおすすめ。
ホラーだから夜に観るとより怖いというのも理由の一つですが、わたしはこれからこのドラマを観るという方には最終話である第9話を是非朝に観て、微かな希望を感じて欲しいのです。
第1〜8話までは、救いのない陰鬱な世界観。
登場人物たちのほとんどは訳あり。
嫌な奴が殺されてスカッとするといった安易なストーリー展開ではなく、むしろ悪役さえも同情すべき事情を抱えているので、このドラマを観ていると息が詰まりそうになります。
登場人物たち全員が気の毒だからです。
全ての悪霊騒ぎの元凶であり、自分とは関係ない人まで殺してどんどん闇堕ちしていく悪霊さえも、哀れです。
伏線が回収されて謎が一つ解けていく度、登場人物たちの置かれている状況は更に悪化。
自分が見ている風景が「現在」のものなのか「過去」のものなのか分からず混乱する登場人物の姿もまた怖い。
それなのに、わたしは途中で観るのをやめようとは思えず、むしろ続きが気になってこの世界にグイグイ引き込まれました。
挿入曲として使われている物悲しいピアノが美しいから?
歴史ある館の雰囲気が素敵だから?
「怖い」よりも「切ない」が圧倒的に勝るストーリーだから?
登場人物全員の苦悩にそれぞれ共感出来るポイントがあるから?
結局は悪霊モノというよりも恋愛モノだから?
自分でも理由はよく分かりませんが、気づいたらわたしは一気に全9話観終えていました。
たまたま第9話まで観終えたのが夜明けと重なったのですが、それがとても良かったです。
真っ暗な世界にだんだん光が射していく感じが、このドラマの結末の雰囲気と合っているなと感じたからです。
だから他の方にも出来ればそのタイミングで観て欲しいです。
また、わたしは普段ならドラマを一度観たら観返すことはほとんど無いのですが、このドラマに関しては第9話まで観た後すぐに第1話から見返しました。
そして「ああ、だからあの人はあの時ああしていたのか…」と登場人物たちの言動の理由が分かり、再び胸を締め付けられました。
また、「うわ…今あの幽霊があの人に憑依しているぞ…」とゾッとしました。
観れば観るほど丁寧に作り込まれた作品です。
※注※
ここから下の考察には、ネタバレを含みます。
ここからは登場人物の名前を入れながら考察していきます。
未鑑賞の方はご注意ください!
ーーーーーーーー
なお、未鑑賞だけどネタバレは知りたいという方のために、ネタバレありの登場人物紹介も書いてみます。
〈登場人物紹介〉
●ダニ
フローラとマイルズの世話係。
婚約者に別れ話をした直後に婚約者が交通事故死したという辛い過去を持つ。
罪悪感に苦しむあまり、時折婚約者の幽霊を見て怯える。
やがてジェイミーと交際し始める。
フローラをヴァイオラから守ろうとして咄嗟に禁断の「呪文」を口にしてしまい、そのおかげでみんなが救われたものの、ヴァイオラを自分の体の中に封印することになってしまった。
やがてダニは自分がヴァイオラを封印し切れなくなりジェイミーに危害を加えることを恐れて、湖に沈んでしまった。
●マイルズ
可愛い男の子。
フローラの兄。
両親を亡くしている。
ピーターに取り憑かれている時、ダニに色目を使ったり、煙草を吸おうとしたり、ハナを井戸に突き落として殺した。
●フローラ
可愛い女の子。
マイルズの妹。
両親を亡くしている(ただし本当の父はヘンリーなので父は生存していることになるが、そのことをフローラは知らない)。
ダニがヴァイオラに見つからないよう、出来る限りダニを守ろうとした。
ヴァイオラのことは怖がっているが、他の顔のない幽霊には慣れている。
人形遊びが好きで、ドールハウスを館に見立てて遊んでいる。
レベッカに取り憑かれる。
●ハナ
館の家政婦。
他の人のことをよく気にかけてくれる性格のため、それを邪魔だと思ったピーター(に取り憑かれているマイルズ)によって殺された。
しばらくは自分が既に死んでいることに気づかず、何だか最近ボーッとしてしまうことなどに困惑していたが、自分が幽霊だと気づいてからも今まで通り家政婦として働いてみんなを支えていた。
オーウェンに好意を抱いている。
幽霊だが、人や物に触れることは出来るようである。
顔のない幽霊とは違い、自我をしっかり維持し、服装もお洒落。
●オーウェン
館の料理人。
認知症の母の介護をしている。
ハナに好意を抱いており、一緒に新しい人生を歩みたいと思っていた。
ハナの死を心から悼む。
●ジェイミー
館の庭師。
話し方はぶっきらぼうだが優しい。
幽霊に怯えるダニを心身共に支えた。
ダニを心から愛している。
恐らくこのドラマの語り部の正体はジェイミー。
ダニが死ぬ時に自分のことを連れて逝かなかったことを寂しく思い、いつかダニの幽霊が目の前に現れるのではないかと今も期待している様子。
●ヘンリー
弁護士。
表向きはマイルズとフローラの叔父…ということになっているが、実はフローラの父。
酒びたり。
亡くなった兄嫁のことを深く愛しており、その不倫関係を亡き兄に知られた。
兄夫婦は夫婦関係を修復しようと出かけた旅行先で事故死。
そのためヘンリーは心の中に悪魔を宿し、その悪魔によって自分を責め続けている。
●レベッカ
ダニの前任者。
ピーターの恋人。
聡明な女性だったが悪い男ピーターに恋をしたのが悲劇の始まり。
ピーターが行方不明になった後、レベッカが湖で溺死しているのが発見されたため、レベッカはピーターに裏切られて絶望し自殺した…ということになっていたが、本当はピーターの幽霊に騙されて殺されたというのが真実。
惚れた弱みというのは死後も続くのか、幽霊になってからもピーターに尚もそそのかされる形でフローラに取り憑いたが、彼女なりにフローラを助けようとした。
●ピーター
ヘンリーの部下。
レベッカの恋人。
ヘンリーの財産を横領して逃亡した…と思われていたが、実は逃亡前に偶然ヴァイオラに殺されて幽霊になっていた。
レベッカを「こうすれば俺たちは一つになれる」と騙してレベッカに憑依し、そのまま湖の中に入って行ってレベッカを溺死させてしまった。
レベッカが死ぬ瞬間は自分はレベッカの体から離れ、死の苦しみをレベッカ本人に味わせた鬼畜。
マイルズに取り憑いてからはハナまで殺した。
…という風に最悪な男だけれど、子どもの頃の辛い体験がトラウマになって根性がねじ曲がっていたという点では少し同情の余地あり。
が、きっとヴァイオラに殺されなくてもどのみちろくな死に方はしなかったはず。
●ヴァイオラ
湖の水底から出てきて彷徨い続ける悪霊。
かつては館の女主人だった。
生前は夫や娘に対する愛情はあったようだが妹に対しては暴言や暴力をふるっていた。
結核にかかり、妹に看病してもらっていたが、妹に殺されて幽霊になった。
娘が年頃になった時のためにと遺したドレスを妹に奪われそうになったため悪霊化し妹を殺害。
それからは無関係な人まで殺すようになった。
その殺し方はなんと、人の首をその強靭な握力で握り潰したり、人を湖の中まで引きずっていって溺れ死にさせるという残忍なもの。
彼女がいる限り、館の敷地内で死んだ人の魂はみんな天国に行けず、館の敷地内に縛られ続け、やがては顔の無い幽霊になってしまう。
…と兇悪っぷりが凄いですが、悪霊化したことに気づいた愛する夫と娘からその魂の入った箱ごと湖に捨てられたという点では同情の余地あり。
〈考察〉
●「認知症」と「幽霊」
館の料理人オーウェンの母が認知症を患っていてオーウェンが苦しんでいる、という設定のおかげで、このドラマは「認知症」と「幽霊」両方を描くことに成功しています。
なかなかホラー系のドラマには珍しいことですが、実際にこういう描き方をされるととてもしっくりくるのだなと驚かされます。
目の前にいるのは誰?
自分は何歳?
今はいつ?
ここはどこ?
…とパニックを起こしている認知症患者と、この作品に登場する幽霊及び悪霊の混乱ぶりは似ています。
彷徨い続けるヴァイオラの姿は、認知症患者の徘徊を思い起こさせます。
ヴァイオラは自分が誰を探しているのかも覚えていません。
ただ眠り、ただ目覚め、ただ歩く。
それを何度も何度も何年も何年も繰り返しています。
もはや自分が誰だったかも分からなくなり、顔が無くなり、それでも彷徨い続ける…。
いくら悪霊といえど哀れです。
認知症患者は治療によっては症状の進行を遅らせることが期待出来ますし自我もありますが、悪霊はどんどん邪悪化していくのが気の毒。
●なぜハナはヴァイオラやピーターと違って悪霊化しなかったの?
ハナは幽霊ですが、ヴァイオラやピーターのような悪霊とはまるっきり違います。
ハナも、死後に混乱して苦しんだという点ではヴァイオラやピーターと同じ。
しかし、ハナは苦しみながらも他の人たちを心配し、可能な限り手助けしました。
もしかしたら生前の性格は死後にも影響するのかもしれません。
しかし、ハナは「最近ボーッとしていることが多くなった」と話します。
もしかしたら、ハナは死んでからそう日が経っていないから(第1話でダニが館にやって来た時点でもうハナは死んでおり、自分の遺体がある井戸を見下ろしている)、自分が誰なのかまだ見失わずにいられたのかもしれません。
いくら優しいハナとはいえ、もし天国にいくのが遅くなったら遅くなるほど、館の他の幽霊たちのようにやがては顔を失ってしまったのかも…。
●「愛しているから連れて逝く」と「愛しているから連れて逝かない」の違い
ピーターはレベッカを「君を愛している。一緒にいたい」と騙して、レベッカのことまで幽霊にしてしまいました。
逆にダニはジェイミーが危険な目に遭わないよう、まだ自分がヴァイオラを封じ込めていられるうちに自殺してしまい、ジェイミーを道連れにはしませんでした。
第3話でジェイミーがダニに言う「人は愛と執着を履き違える」というセリフがピーターとダニの違いを明確に示しています。
ピーターはレベッカに執着していたから殺したのです。
「愛している」なんて嘘。
本当に愛していたら道連れになんてしません。
逆に、きっとダニはジェイミーを愛しているからこそ連れて逝かなかったのです。
きっと同じ理由でハナもオーウェンを連れて逝きませんでした。
愛しているから。
生きていて欲しかったのでしょう。
●ダニが死なずに済む方法は無かったの?
…無かったのでしょうか…?
わたしとしてはダニに死んで欲しくなかったので、この作品を観返してあれこれ他の道を想像するのですが(ハナやレベッカの死も悲しいけれど)、
ヴァイオラにダニが殺されそうになる→フローラがダニの身代わりになって殺されそうになる→ダニがフローラを助けるために禁断の呪文を唱えてヴァイオラをダニの体に封じ込める
という流れを変えるのはなかなか難しそうです。
ヴァイオラは一度狙った獲物は問答無用で殺そうとするし、異常な怪力なのでその手を振り払うことは生身の人間には出来ないし、体当たりしようが銃で撃とうがビクともしないでしょうし多分ヴァイオラが意識していない人間や物はヴァイオラに触れることも出来ない可能性があります。
残念。
強過ぎる…。
わたしはヘンリーの心の中の悪魔やフローラの両親の幽霊(残念ながら登場しません)がヴァイオラを何とかしてくれないかなと期待して観ていたのですが、そんな展開にはなりませんでした。
…というわけで、ダニが生存するためのルートを無理矢理捻り出すとするならば、わたしはまず「ヴァイオラの娘の子孫を何とか探し出し、その子孫にヴァイオラが娘に遺したがっていたドレス風のドレスを着てもらい、ヴァイオラの魂を満足させて天国にいってもらう」を提案します。
…あれだけ無差別殺人をやらかしたヴァイオラがたったそれだけで天国に行けるかどうかは賭けですが。
下手にゴーストバスターズ的な人に依頼するよりは効果的かも…?
しかし子孫なんていないかもしれない。
或いは「フローラがいつも持っていたお守り人形にヴァイオラを移す」とか?
わたしはフローラがよく人形遊びをしていたしドールハウスを館に見立てていたので、てっきりお守り人形を利用してヴァイオラに対処する結末になるのかと思っていたのですが、最後までお守り人形は有効利用されなかったのが残念です。
日本の神社でよく「ヒトガタに自分の厄を移す」ということが行われているので、是非ダニに日本の神社に来て欲しかったなとも思います。
…とは言え、既にダニ自身がヒトガタとしての役目を担っているわけですから、そこから更に別の物にヴァイオラを転移させられるかは謎ですね…。
他にもダニ生存ルートの良い案がある方、教えてください…。
※極力ネタバレを避けるため、この作品紹介では登場人物の名前を書きません。
Netflixオリジナルドラマ。
夜から明け方にかけて全9話を一気に観るのがおすすめ。
ホラーだから夜に観るとより怖いというのも理由の一つですが、わたしはこれからこのドラマを観るという方には最終話である第9話を是非朝に観て、微かな希望を感じて欲しいのです。
第1〜8話までは、救いのない陰鬱な世界観。
登場人物たちのほとんどは訳あり。
嫌な奴が殺されてスカッとするといった安易なストーリー展開ではなく、むしろ悪役さえも同情すべき事情を抱えているので、このドラマを観ていると息が詰まりそうになります。
登場人物たち全員が気の毒だからです。
全ての悪霊騒ぎの元凶であり、自分とは関係ない人まで殺してどんどん闇堕ちしていく悪霊さえも、哀れです。
伏線が回収されて謎が一つ解けていく度、登場人物たちの置かれている状況は更に悪化。
自分が見ている風景が「現在」のものなのか「過去」のものなのか分からず混乱する登場人物の姿もまた怖い。
それなのに、わたしは途中で観るのをやめようとは思えず、むしろ続きが気になってこの世界にグイグイ引き込まれました。
挿入曲として使われている物悲しいピアノが美しいから?
歴史ある館の雰囲気が素敵だから?
「怖い」よりも「切ない」が圧倒的に勝るストーリーだから?
登場人物全員の苦悩にそれぞれ共感出来るポイントがあるから?
結局は悪霊モノというよりも恋愛モノだから?
自分でも理由はよく分かりませんが、気づいたらわたしは一気に全9話観終えていました。
たまたま第9話まで観終えたのが夜明けと重なったのですが、それがとても良かったです。
真っ暗な世界にだんだん光が射していく感じが、このドラマの結末の雰囲気と合っているなと感じたからです。
だから他の方にも出来ればそのタイミングで観て欲しいです。
また、わたしは普段ならドラマを一度観たら観返すことはほとんど無いのですが、このドラマに関しては第9話まで観た後すぐに第1話から見返しました。
そして「ああ、だからあの人はあの時ああしていたのか…」と登場人物たちの言動の理由が分かり、再び胸を締め付けられました。
また、「うわ…今あの幽霊があの人に憑依しているぞ…」とゾッとしました。
観れば観るほど丁寧に作り込まれた作品です。
※注※
ここから下の考察には、ネタバレを含みます。
ここからは登場人物の名前を入れながら考察していきます。
未鑑賞の方はご注意ください!
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なお、未鑑賞だけどネタバレは知りたいという方のために、ネタバレありの登場人物紹介も書いてみます。
〈登場人物紹介〉
●ダニ
フローラとマイルズの世話係。
婚約者に別れ話をした直後に婚約者が交通事故死したという辛い過去を持つ。
罪悪感に苦しむあまり、時折婚約者の幽霊を見て怯える。
やがてジェイミーと交際し始める。
フローラをヴァイオラから守ろうとして咄嗟に禁断の「呪文」を口にしてしまい、そのおかげでみんなが救われたものの、ヴァイオラを自分の体の中に封印することになってしまった。
やがてダニは自分がヴァイオラを封印し切れなくなりジェイミーに危害を加えることを恐れて、湖に沈んでしまった。
●マイルズ
可愛い男の子。
フローラの兄。
両親を亡くしている。
ピーターに取り憑かれている時、ダニに色目を使ったり、煙草を吸おうとしたり、ハナを井戸に突き落として殺した。
●フローラ
可愛い女の子。
マイルズの妹。
両親を亡くしている(ただし本当の父はヘンリーなので父は生存していることになるが、そのことをフローラは知らない)。
ダニがヴァイオラに見つからないよう、出来る限りダニを守ろうとした。
ヴァイオラのことは怖がっているが、他の顔のない幽霊には慣れている。
人形遊びが好きで、ドールハウスを館に見立てて遊んでいる。
レベッカに取り憑かれる。
●ハナ
館の家政婦。
他の人のことをよく気にかけてくれる性格のため、それを邪魔だと思ったピーター(に取り憑かれているマイルズ)によって殺された。
しばらくは自分が既に死んでいることに気づかず、何だか最近ボーッとしてしまうことなどに困惑していたが、自分が幽霊だと気づいてからも今まで通り家政婦として働いてみんなを支えていた。
オーウェンに好意を抱いている。
幽霊だが、人や物に触れることは出来るようである。
顔のない幽霊とは違い、自我をしっかり維持し、服装もお洒落。
●オーウェン
館の料理人。
認知症の母の介護をしている。
ハナに好意を抱いており、一緒に新しい人生を歩みたいと思っていた。
ハナの死を心から悼む。
●ジェイミー
館の庭師。
話し方はぶっきらぼうだが優しい。
幽霊に怯えるダニを心身共に支えた。
ダニを心から愛している。
恐らくこのドラマの語り部の正体はジェイミー。
ダニが死ぬ時に自分のことを連れて逝かなかったことを寂しく思い、いつかダニの幽霊が目の前に現れるのではないかと今も期待している様子。
●ヘンリー
弁護士。
表向きはマイルズとフローラの叔父…ということになっているが、実はフローラの父。
酒びたり。
亡くなった兄嫁のことを深く愛しており、その不倫関係を亡き兄に知られた。
兄夫婦は夫婦関係を修復しようと出かけた旅行先で事故死。
そのためヘンリーは心の中に悪魔を宿し、その悪魔によって自分を責め続けている。
●レベッカ
ダニの前任者。
ピーターの恋人。
聡明な女性だったが悪い男ピーターに恋をしたのが悲劇の始まり。
ピーターが行方不明になった後、レベッカが湖で溺死しているのが発見されたため、レベッカはピーターに裏切られて絶望し自殺した…ということになっていたが、本当はピーターの幽霊に騙されて殺されたというのが真実。
惚れた弱みというのは死後も続くのか、幽霊になってからもピーターに尚もそそのかされる形でフローラに取り憑いたが、彼女なりにフローラを助けようとした。
●ピーター
ヘンリーの部下。
レベッカの恋人。
ヘンリーの財産を横領して逃亡した…と思われていたが、実は逃亡前に偶然ヴァイオラに殺されて幽霊になっていた。
レベッカを「こうすれば俺たちは一つになれる」と騙してレベッカに憑依し、そのまま湖の中に入って行ってレベッカを溺死させてしまった。
レベッカが死ぬ瞬間は自分はレベッカの体から離れ、死の苦しみをレベッカ本人に味わせた鬼畜。
マイルズに取り憑いてからはハナまで殺した。
…という風に最悪な男だけれど、子どもの頃の辛い体験がトラウマになって根性がねじ曲がっていたという点では少し同情の余地あり。
が、きっとヴァイオラに殺されなくてもどのみちろくな死に方はしなかったはず。
●ヴァイオラ
湖の水底から出てきて彷徨い続ける悪霊。
かつては館の女主人だった。
生前は夫や娘に対する愛情はあったようだが妹に対しては暴言や暴力をふるっていた。
結核にかかり、妹に看病してもらっていたが、妹に殺されて幽霊になった。
娘が年頃になった時のためにと遺したドレスを妹に奪われそうになったため悪霊化し妹を殺害。
それからは無関係な人まで殺すようになった。
その殺し方はなんと、人の首をその強靭な握力で握り潰したり、人を湖の中まで引きずっていって溺れ死にさせるという残忍なもの。
彼女がいる限り、館の敷地内で死んだ人の魂はみんな天国に行けず、館の敷地内に縛られ続け、やがては顔の無い幽霊になってしまう。
…と兇悪っぷりが凄いですが、悪霊化したことに気づいた愛する夫と娘からその魂の入った箱ごと湖に捨てられたという点では同情の余地あり。
〈考察〉
●「認知症」と「幽霊」
館の料理人オーウェンの母が認知症を患っていてオーウェンが苦しんでいる、という設定のおかげで、このドラマは「認知症」と「幽霊」両方を描くことに成功しています。
なかなかホラー系のドラマには珍しいことですが、実際にこういう描き方をされるととてもしっくりくるのだなと驚かされます。
目の前にいるのは誰?
自分は何歳?
今はいつ?
ここはどこ?
…とパニックを起こしている認知症患者と、この作品に登場する幽霊及び悪霊の混乱ぶりは似ています。
彷徨い続けるヴァイオラの姿は、認知症患者の徘徊を思い起こさせます。
ヴァイオラは自分が誰を探しているのかも覚えていません。
ただ眠り、ただ目覚め、ただ歩く。
それを何度も何度も何年も何年も繰り返しています。
もはや自分が誰だったかも分からなくなり、顔が無くなり、それでも彷徨い続ける…。
いくら悪霊といえど哀れです。
認知症患者は治療によっては症状の進行を遅らせることが期待出来ますし自我もありますが、悪霊はどんどん邪悪化していくのが気の毒。
●なぜハナはヴァイオラやピーターと違って悪霊化しなかったの?
ハナは幽霊ですが、ヴァイオラやピーターのような悪霊とはまるっきり違います。
ハナも、死後に混乱して苦しんだという点ではヴァイオラやピーターと同じ。
しかし、ハナは苦しみながらも他の人たちを心配し、可能な限り手助けしました。
もしかしたら生前の性格は死後にも影響するのかもしれません。
しかし、ハナは「最近ボーッとしていることが多くなった」と話します。
もしかしたら、ハナは死んでからそう日が経っていないから(第1話でダニが館にやって来た時点でもうハナは死んでおり、自分の遺体がある井戸を見下ろしている)、自分が誰なのかまだ見失わずにいられたのかもしれません。
いくら優しいハナとはいえ、もし天国にいくのが遅くなったら遅くなるほど、館の他の幽霊たちのようにやがては顔を失ってしまったのかも…。
●「愛しているから連れて逝く」と「愛しているから連れて逝かない」の違い
ピーターはレベッカを「君を愛している。一緒にいたい」と騙して、レベッカのことまで幽霊にしてしまいました。
逆にダニはジェイミーが危険な目に遭わないよう、まだ自分がヴァイオラを封じ込めていられるうちに自殺してしまい、ジェイミーを道連れにはしませんでした。
第3話でジェイミーがダニに言う「人は愛と執着を履き違える」というセリフがピーターとダニの違いを明確に示しています。
ピーターはレベッカに執着していたから殺したのです。
「愛している」なんて嘘。
本当に愛していたら道連れになんてしません。
逆に、きっとダニはジェイミーを愛しているからこそ連れて逝かなかったのです。
きっと同じ理由でハナもオーウェンを連れて逝きませんでした。
愛しているから。
生きていて欲しかったのでしょう。
●ダニが死なずに済む方法は無かったの?
…無かったのでしょうか…?
わたしとしてはダニに死んで欲しくなかったので、この作品を観返してあれこれ他の道を想像するのですが(ハナやレベッカの死も悲しいけれど)、
ヴァイオラにダニが殺されそうになる→フローラがダニの身代わりになって殺されそうになる→ダニがフローラを助けるために禁断の呪文を唱えてヴァイオラをダニの体に封じ込める
という流れを変えるのはなかなか難しそうです。
ヴァイオラは一度狙った獲物は問答無用で殺そうとするし、異常な怪力なのでその手を振り払うことは生身の人間には出来ないし、体当たりしようが銃で撃とうがビクともしないでしょうし多分ヴァイオラが意識していない人間や物はヴァイオラに触れることも出来ない可能性があります。
残念。
強過ぎる…。
わたしはヘンリーの心の中の悪魔やフローラの両親の幽霊(残念ながら登場しません)がヴァイオラを何とかしてくれないかなと期待して観ていたのですが、そんな展開にはなりませんでした。
…というわけで、ダニが生存するためのルートを無理矢理捻り出すとするならば、わたしはまず「ヴァイオラの娘の子孫を何とか探し出し、その子孫にヴァイオラが娘に遺したがっていたドレス風のドレスを着てもらい、ヴァイオラの魂を満足させて天国にいってもらう」を提案します。
…あれだけ無差別殺人をやらかしたヴァイオラがたったそれだけで天国に行けるかどうかは賭けですが。
下手にゴーストバスターズ的な人に依頼するよりは効果的かも…?
しかし子孫なんていないかもしれない。
或いは「フローラがいつも持っていたお守り人形にヴァイオラを移す」とか?
わたしはフローラがよく人形遊びをしていたしドールハウスを館に見立てていたので、てっきりお守り人形を利用してヴァイオラに対処する結末になるのかと思っていたのですが、最後までお守り人形は有効利用されなかったのが残念です。
日本の神社でよく「ヒトガタに自分の厄を移す」ということが行われているので、是非ダニに日本の神社に来て欲しかったなとも思います。
…とは言え、既にダニ自身がヒトガタとしての役目を担っているわけですから、そこから更に別の物にヴァイオラを転移させられるかは謎ですね…。
他にもダニ生存ルートの良い案がある方、教えてください…。
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