野村萬斎演じる成田長親(のぼう)は魅力的。
 無邪気に振る舞うことで周囲の人々を和やかにしつつも、その実、もはや脊髄反射としか思えぬほど素早く鮮やかに敵も味方も魅了する策士。
 もはや成田長親は、野村萬斎以外には演じきれないでしょう。
 
 けれどそれ以上に、上地雄輔演じる石田三成の好感度が高いことに、ただただ驚かされました。
 石田三成と言えば冷酷なイメージがつきものですが、上地雄輔版の石田三成は、理想に燃える若い武士で、自分から見れば敵であるはずの忍城の人々のことを素直に賞賛します。
 何より、石田三成が「錢と武力のためにしか動かない世の中」を嘆く姿が、武士道の輝きを求めてこういう映画を観るような、まさに現代日本人の心情とも重なって感じられ、非常に共感しました。

 主人公サイド(成田長親)から見れば敵であるはずの石田三成に好感を持てる、今までにない映画だと思います。

 この映画には真の悪役はいません。
 秀吉さえも、石田三成に自信をつけてもらうべく、陰であれこれ根回ししてくれる優しい上司に思えました。
 最も貧乏くじを引いた長束正家さえも、最終的にはどこか滑稽でクスクス笑いを誘う存在に。

 水攻めのシーンが描かれているので、今回の津波を経験なさった方たちにはお勧め出来ない映画ではあるのは事実…。
 けれど、この映画では、水攻めにあったはずの主要人物たちは何故かケガ一つ負っていないし、むしろ前向きですらあります。
 そもそも石田三成が忍城に水攻めをしたのに忍城の人々が戦い抜いたのは史実。
 「昔の人たちも頑張ったんだな」と、どこか勇気づけられるような気がします。勿論、戦で水攻めされるのと、全く想定外であるなか突然津波に日常を奪われるのはショックの度合いが違い過ぎるので、何とも言えませんが…。

 この映画のエンドロールとエンドロールの間に、現在の忍城周辺の風景が映し出されるのですが、あの風景こそまさに、この映画が発するメッセージだと思います。
 戦争がテーマであるにも関わらず、この映画は終始笑いを取ろうとしました。それにより、良い意味では安心して観られる、悪く言えば緊迫感の無い映画になってしまったことは事実。さすがに一騎打ちシーンはグロテスクではありますが、今時のハリウッド映画を見慣れている人にとっては大した残酷描写とは言えません。
 けれど、忍城の戦いを非常にコカルに描こうとし、そして成功したこの映画の試みによって、これまで日本の歴史にあまり興味の無かった人たちにも「歴史って面白い」「自分たちが住んでいる街でも、昔はこんな凄い人たちが頑張っていたのかな?」と興味を抱かせることもまた間違いないでしょう。

 是非映画館で観ることをお勧めします。
 

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