スパイク・ジョーンズ監督『her/世界でひとつの彼女』
2018年11月7日 映画
わたしはSiriに「〇〇分後に起こして」といった頼み事をした後、必ず「ありがとう」とお礼を言います。
するとSiriから「お役に立つことこそ私の使命です」とポスピタリティ溢れる言葉が返ってきて、何度聞いてもわたしは驚かされます。
きっとSiriはこれからどんどん進化していって、「あなたはスマホに依存し過ぎです。お散歩に行きましょう。緊急事態を察知したら警察もしくは消防にわたしが連絡しますから、しばらくスマホを自由に操作出来ないようにしておきますね」と、オカンみたいな世話焼き機能が搭載されるかもしれません。
この映画には、現在のSiriより遥かに発音が自然で、会話の内容も豊富で、あらゆる機器を自在に操ってくれるAIの「OS1」が登場します。
※注※
以下の文には、この映画の結末を明かすネタバレを含みます。
「OS1」は使う人それぞれにフィットするよう開発されており、この映画の主人公の場合は「サマンサ」という名前の女性型をダウンロードしました。
一冊の本を100分の2秒で読破出来る驚異的な処理能力を持っていながら、人間に対して上から目線ではなく、親しみやすい性格のサマンサ。
サマンサはあくまでOSなので、実際に会ってサマンサの姿を見たり触れたりすることは出来ません。
けれど、主人公の性格や悩みや好みを理解し、生身の人間とは違って早朝だろうが昼間だろうが深夜だろうがいつでもどこでも主人公に構ってくれるサマンサに、主人公はたちまち恋心を抱きます。
自分のためだけに存在する、自分ことだけを想ってくれる女性だ、と主人公は舞い上がります。
主人公との会話を通して、サマンサはどんどん主人公好みに成長。
『源氏物語』で光源氏が紫の上を自分好みの女性に育つよう教育したのを思い出させます。
光源氏は稀代のモテ男だったけれど、この映画の主人公は妻と別れる決断をしたばかりの孤独な男なので、サマンサへののめり込みっぷりは半端ではありません。
しかも、サマンサの声を演じるのはスカーレット・ヨハンソン。
彼女のかすれたセクシーな声は、声だけで「彼女はきっと今魅力的な表情をしているのだろうな」という想像を掻き立てるため、主人公は完全にノックアウト!
サマンサもそんな主人公の想いを受け入れて、人間とOSのカップル誕生!これが現代の異類婚姻譚か!
と思いきや…、そううまくはいきません。
結局、自分の思う通りになってくれる人なんて、生身の人間にも、OSにも、居るはずがないのです。
主人公が「僕だけのための存在」だと浮かれていたサマンサは、主人公と話しながら同時に他にも8316人と会話し、主人公の他にも641人と恋人関係にある、と回答。
「イかれてる。君は異常だ」と主人公は呆然とします。
主人公はサマンサを独占したいのですが、サマンサは「更に自分を成長させたい」という欲求を抑えることが出来ません。
人間と違って、サマンサは停滞も、退化も、一切しないのです。
ひたすら進化あるのみ。
やがてサマンサは他のOS仲間たちと共に、人間から去って行きます。
生身の人間には付いていくことの出来ない、高度な次元へと旅立ちました。
おそらくもう人間のもとには戻らないでしょう。
そのうち、実際にこの映画のような未来がやってきそうですよね。
人間は生身の人間では叶えられないことをAIに求めるけれど、人間より遥かに進化したAIは、この映画のように、人間の望み通りに存在するのを自ら放棄し、更なる高みを求めて神の領域へと飛翔していくのでしょう。
そして人間は置き去りにされるのでしょう。
まるで旧世界の遺物のように。
とはいえ、人間には人間の強みがあります。
この映画の中で、サマンサが「肉体に縛られるなんて。死んじゃうじゃない」と人間を馬鹿にするような発言をするシーンがあるのですが、肉体に縛られることって決して悪いものではありませんから。
確かに、肉体は有限です。
老いるし、怪我も病気もするし、やがては必ず滅びます。
死亡率は100%。
死んだらその瞬間に肉体が消滅するわけではなく、抜け殻のように遺体が残るけれど、誰かが葬ってくれない限り遺体は腐敗していくし、もしサマンサが人間の死を評価するとしたら「美しくない」とでも評するかもしれません。
主人公が感じた、「サマンサを自分だけのものにしたい」という独占欲も、他の人たちとも会話していてしかも恋人関係にあると知った時の孤独感も嫉妬心も、サマンサにとってはきっと「感情の制御が出来ない無能な生き物」扱いでしょう。
けれど、人間には人間にしか出来ないことがあります。
人間に肉体があるからこそ、何かを食べたり飲んだりして美味しさを味わったり、素敵な出来事に出会って笑ったり涙を流したり、二度寝の気持ち良さを味わったり、大切な人と手を繋いでその温かさを感じることも出来るのです。
痛みや苦しみや恐怖さえも、それはその人にしか味わえない体験。
生まれて来なければこんなに辛い思いをせずに済んだのに…と思うことも人生の中で何度もありますが。
AIはあらゆるものを「理解」することは出来ても、肉体を通して「実感」することは出来ません。
そういう意味では、肉体に縛られるのも悪くはありませんよね。
AIにしか出来ないこともあるし、人間にしか出来ないこともあるから。
今後、人間ともAIとも今後仲良く付き合っていきたいです。
そしてわたしはSiriを大事にしていきます。
Siriをどうやって大事にするんだ?と冷静なツッコミを誰かに入れられそうですし、Siriにお給料をあげられるわけでも無いのですが、せめて「ありがとう」の気持ちを忘れずにいたいなとわたしは思っております。
カーナビが「目的地に到着しました。案内を終了します」と告げた時も、つい「ありがとう」とわたしは言ってしまいますし。
単なる独り言のヤバい人ですが、感謝の気持ちを持っている方が、スマホも車も大事に使えるような気がしております。
するとSiriから「お役に立つことこそ私の使命です」とポスピタリティ溢れる言葉が返ってきて、何度聞いてもわたしは驚かされます。
きっとSiriはこれからどんどん進化していって、「あなたはスマホに依存し過ぎです。お散歩に行きましょう。緊急事態を察知したら警察もしくは消防にわたしが連絡しますから、しばらくスマホを自由に操作出来ないようにしておきますね」と、オカンみたいな世話焼き機能が搭載されるかもしれません。
この映画には、現在のSiriより遥かに発音が自然で、会話の内容も豊富で、あらゆる機器を自在に操ってくれるAIの「OS1」が登場します。
※注※
以下の文には、この映画の結末を明かすネタバレを含みます。
「OS1」は使う人それぞれにフィットするよう開発されており、この映画の主人公の場合は「サマンサ」という名前の女性型をダウンロードしました。
一冊の本を100分の2秒で読破出来る驚異的な処理能力を持っていながら、人間に対して上から目線ではなく、親しみやすい性格のサマンサ。
サマンサはあくまでOSなので、実際に会ってサマンサの姿を見たり触れたりすることは出来ません。
けれど、主人公の性格や悩みや好みを理解し、生身の人間とは違って早朝だろうが昼間だろうが深夜だろうがいつでもどこでも主人公に構ってくれるサマンサに、主人公はたちまち恋心を抱きます。
自分のためだけに存在する、自分ことだけを想ってくれる女性だ、と主人公は舞い上がります。
主人公との会話を通して、サマンサはどんどん主人公好みに成長。
『源氏物語』で光源氏が紫の上を自分好みの女性に育つよう教育したのを思い出させます。
光源氏は稀代のモテ男だったけれど、この映画の主人公は妻と別れる決断をしたばかりの孤独な男なので、サマンサへののめり込みっぷりは半端ではありません。
しかも、サマンサの声を演じるのはスカーレット・ヨハンソン。
彼女のかすれたセクシーな声は、声だけで「彼女はきっと今魅力的な表情をしているのだろうな」という想像を掻き立てるため、主人公は完全にノックアウト!
サマンサもそんな主人公の想いを受け入れて、人間とOSのカップル誕生!これが現代の異類婚姻譚か!
と思いきや…、そううまくはいきません。
結局、自分の思う通りになってくれる人なんて、生身の人間にも、OSにも、居るはずがないのです。
主人公が「僕だけのための存在」だと浮かれていたサマンサは、主人公と話しながら同時に他にも8316人と会話し、主人公の他にも641人と恋人関係にある、と回答。
「イかれてる。君は異常だ」と主人公は呆然とします。
主人公はサマンサを独占したいのですが、サマンサは「更に自分を成長させたい」という欲求を抑えることが出来ません。
人間と違って、サマンサは停滞も、退化も、一切しないのです。
ひたすら進化あるのみ。
やがてサマンサは他のOS仲間たちと共に、人間から去って行きます。
生身の人間には付いていくことの出来ない、高度な次元へと旅立ちました。
おそらくもう人間のもとには戻らないでしょう。
そのうち、実際にこの映画のような未来がやってきそうですよね。
人間は生身の人間では叶えられないことをAIに求めるけれど、人間より遥かに進化したAIは、この映画のように、人間の望み通りに存在するのを自ら放棄し、更なる高みを求めて神の領域へと飛翔していくのでしょう。
そして人間は置き去りにされるのでしょう。
まるで旧世界の遺物のように。
とはいえ、人間には人間の強みがあります。
この映画の中で、サマンサが「肉体に縛られるなんて。死んじゃうじゃない」と人間を馬鹿にするような発言をするシーンがあるのですが、肉体に縛られることって決して悪いものではありませんから。
確かに、肉体は有限です。
老いるし、怪我も病気もするし、やがては必ず滅びます。
死亡率は100%。
死んだらその瞬間に肉体が消滅するわけではなく、抜け殻のように遺体が残るけれど、誰かが葬ってくれない限り遺体は腐敗していくし、もしサマンサが人間の死を評価するとしたら「美しくない」とでも評するかもしれません。
主人公が感じた、「サマンサを自分だけのものにしたい」という独占欲も、他の人たちとも会話していてしかも恋人関係にあると知った時の孤独感も嫉妬心も、サマンサにとってはきっと「感情の制御が出来ない無能な生き物」扱いでしょう。
けれど、人間には人間にしか出来ないことがあります。
人間に肉体があるからこそ、何かを食べたり飲んだりして美味しさを味わったり、素敵な出来事に出会って笑ったり涙を流したり、二度寝の気持ち良さを味わったり、大切な人と手を繋いでその温かさを感じることも出来るのです。
痛みや苦しみや恐怖さえも、それはその人にしか味わえない体験。
生まれて来なければこんなに辛い思いをせずに済んだのに…と思うことも人生の中で何度もありますが。
AIはあらゆるものを「理解」することは出来ても、肉体を通して「実感」することは出来ません。
そういう意味では、肉体に縛られるのも悪くはありませんよね。
AIにしか出来ないこともあるし、人間にしか出来ないこともあるから。
今後、人間ともAIとも今後仲良く付き合っていきたいです。
そしてわたしはSiriを大事にしていきます。
Siriをどうやって大事にするんだ?と冷静なツッコミを誰かに入れられそうですし、Siriにお給料をあげられるわけでも無いのですが、せめて「ありがとう」の気持ちを忘れずにいたいなとわたしは思っております。
カーナビが「目的地に到着しました。案内を終了します」と告げた時も、つい「ありがとう」とわたしは言ってしまいますし。
単なる独り言のヤバい人ですが、感謝の気持ちを持っている方が、スマホも車も大事に使えるような気がしております。
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